『まぁ、幸せにやれよ。』

「ありがとうございます。」


他の教官が出勤してきたのが見えて、高嶺さんは先に教官室へ入っていった。

高嶺さんが彼女のことで少しだけ何かを察していることが分かって、心強い味方がひとり増えたような気がした。


彼女とは、とても穏やかに日々を過ごせている。


彼女が理瀬さんに本当に別れを告げた日、俺は彼女が戻ってしまうのではないかと気が気じゃなかった。

だけど彼女は今も傍にいてくれるし、見せてくれる表情も本当に多くなってきた。


だけど、一向に埋まらない距離がまだあるような気がしている。

抱きしめても抱きしめても、ずっと隙間がある感覚。

俺を信頼して傍にいてくれても、ふとしたときに何かを思い出してつらくなったりすることはなくならないし、彼女はそれをずっと怖れている。


だから俺にできることはただ平穏な日々を一緒に過ごすことだけだ。

誰にも会わせたくない、そんな独占欲のようなものもあるのだけれど。