『俺はどこでもいい。』

「え?」

『明日実といるなら、どこでもいい。』


今度こそ泣いてしまいそうになるのを、店員さんの姿を見て必死で堪える。

何かあれば助けを求められる場所が、帰る場所が、彼よりもまだ実家や病院であることを彼は分かっている。

それでもそう言ってくれることに、胸が締めつけられていた。



「ありがとう。」

『気にすんな。』


グラスを置いて、届いたばかりの紅茶が入ったマグカップに手を添える。

その温かさに、少しずつ心がほぐれていくのを感じていた。



『明日実、すごいぞ。』

「どうしたの?」


会計を終えた彼がお手洗いに行くと言ったから先に車へ戻っていると、なぜか興奮気味に戻ってきた。



『トイレでさっきハンカチ拾ってくれた人に会った。』

「え?ほんとに?」

『あの美術館からこのカフェって、結構定番コースだったのかもな。もうちょっと調べりゃ良かった。』

「そんなことないよ。」


少し悔しそうに言う彼に充分過ぎる程幸せだと、どうすればもっと伝えられるのだろう。