白い海を辿って。


「ご飯どこで食べる?」

『美術館の中でご飯の話かよ。』


絵を見ながらご飯の話をする私を彼が笑う。

人気のイラストレーターだけあって館内は賑わっていた。



『心配しなくても調べてあるから。』

「え?どこ?」

『出てからのお楽しみ。小声で話すことじゃないだろ。』


相変わらず楽しそうに笑いながらも彼は真剣に絵に見入っている。

そんな彼の横顔を見るともなく眺めていると、ふいに私も見られているような感覚になった。


最近彼は髪をまた少しだけ明るくして、さっぱりと短くしていた。

そんな彼が目を引く存在だということを、隣にいていつも感じていた。

周囲から見ると隣にいるのがなぜ私のような地味な子なのだろうと思われていることも。



『ん?』

「なんでもない。」


顔を見ていたことに気付かれてすっと離れると、絵見ろよという笑い声が背中に聞こえた。


その声の通りしばらく絵に見入っていると、彼が近くにいないことに気付く。