「あの、」
『ふん?』
一緒に彼の家に帰り、落ち着いたタイミングで声をかける。
パン屋さんで買ってきたばかりのパンをテーブルに広げ、どれを食べようか迷っている彼の気の抜けた返事がおかしい。
「一緒に住む話だけど、」
その一言に彼がぱっと顔をあげる。
すれ違うように、私はパンに視線を落とした。
「今はまだ、考えられなくて。」
『…そうか。』
「はるくんと一緒に暮らすことが嫌なわけじゃなくて、今はまだ、実家を出る勇気がないの。」
2人で暮らせたら楽しいと思う。
何度も想像したけれど、どうしても勇気が出ない。
続かなくて付き合い自体がうまくいかなくなってしまうことも怖かった。
『分かった。ごめんな、俺もちょっと焦りすぎてた。ゆっくりでいいから。』
「うん、ありがとう。」
『鍵はそのまま持ってて。気が向いたら来いよ。』
ゆっくりでいい。
そう言ってくれる彼に甘えてばかりだけど、甘えさせてくれることに救われていた。



