「家どこ?」
もう1度聞いてみたけれど返事はこなくて、ひたすら車を走らせる。
うるさいくらいに輝く街中に、思い出してしまいそうなことを思い出さないように必死に蓋をする。
『寂しくないんですか?』
ふいに聞こえてきた椎野さんの声は、先程までとは違う低くて冷たいものだった。
「寂しくないね。」
『変なの。普通クリスマスに1人の家になんか帰りたくないですよ。』
「そうかな。」
『そんなだから離婚するんですよ。』
知ってたのか。
椎野さんに知られていたからって別に何とも思わないし、気が変わって一緒に帰ろうなんてことも思わない。
どうせ誰かに聞いたのだろう。
『バツイチだって聞いたのに全然平気そうだし、のほほんとしてるし。なんなんだろうこの人って思ってたら、だんだん気になってきて。』
「うん。」
『でも最近ちょっと寂しそうだったから。』
視界の端で、椎野さんがぐっとバッグの取っ手を握ったのが見える。



