『理瀬先生~。』
あぁ、また来たぞ。
きつくない程度に香る香水、相変わらず綺麗にセットされた髪、夜になっても全く崩れていないメイク。
椎野さんの雰囲気は、どことなく妻を思い出させる。
「お疲れ様。」
『そんなに軽くあしらおうとしないでください。』
「してないよ。」
『もう帰っちゃうんですか?』
してないよと言いつつ車のロックを解除する俺を椎野さんが追ってくる。
「帰ります。」
『クリスマスなのに?』
「俺には関係ないんで。」
『じゃあ帰っても1人ってことですか?』
車のドアに手をかけると、椎野さんは更に距離を詰めてくる。
「そうだね。じゃあ帰るから。」
『私も一緒に帰ります。』
「はぁ…」
『溜め息つかないでください。』
あまりに突拍子のないことを言われてただ驚いただけだったのだけど、椎野さんには伝わらなかったみたいだ。
溜め息つかないで。
そういえば滝本さんには、自分のせいだと勘違いして謝らせてしまった。



