離婚したからと言って、滝本さんと会わなくなったからと言って、好きじゃなくなったわけじゃなかった。
早見さんにも、もちろん青井くんにも言えなかったけれど。
心のどこかにずっと滝本さんがいて、滝本さんの存在が救いだった。
だけどいつも、また会えるかもしれないという希望を恐怖が上回る。
たったひとりを幸せにすることができなかった、自分の人生を丸ごと否定されたかのような絶望感。
そんな俺の中から完璧に滝本さんの存在を消したのは、青井くんの"俺が幸せにします”という一言だった。
俺には絶対にできない、滝本さんを幸せにすること。
忘れようと思った。
2人がいるあの街から離れて、本当にひとりで生きていこうと思った。
青井くんにその言葉を破ったら許さないと言ったのは、滝本さんを好きだった俺の最後のあがきだったのかもしれない。
許さないって言ったって、もう傍に行くことはできないのに。
だけど今、その滝本さんの名前が手のひらの中にある。



