『謝んなよ。疲れて帰ってきたら家に電気が点いてて、いい匂いがして、彼女が待ってるって…すげぇ幸せだわ。』


私をぎゅっと抱きしめた後、脱力したように身体を預ける彼を支える。



「お疲れ様でした。」


免許を取る前の人たちが運転する車に乗る仕事は、きっと身体的な疲れだけじゃなく精神的な疲れも大きいだろう。

今日も変わらずに帰ってきてくれたことにほっとする。

手を伸ばして髪をさわさわと撫でると、少し腕の力が強くなった。



『明日実。』

「うん?」

『毎日こんなだったら幸せだよな。』

「そうだね。」


電子レンジが温め終了の音を鳴らして、どちらからともなく身体を離す。

毎日がこんなだったら確かに幸せだ。

でも、少しだけ彼の声のトーンが暗かったことが気になっていた。

職場で何かあったのだろうか。



『着替えてくるわ。』

「うん。」


気になったけれど、何か声をかける前に寝室へ入ってしまった彼の背中をただ見送ることしかできなかった。