『あまりによく寝てるもんだから、もしかしたら頓服の薬を飲んだんじゃないかって、お母さんが。』
「うん。」
頓服薬は、毎日決まって飲む薬ではなく、不安が少し強く出たときに飲む薬。
「どうしてわざわざ家まで来てくれたの?」
『今日のことちゃんと謝りたかったし。』
「電話でもよかったのに。」
『会いたかったから。』
コンビニの看板が見えて、車は緩やかに速度を落とす。
駐車場に車を停めても、彼は降りようとはしなかった。
『ごめんな、今日も、昨日も。』
「昨日のことはもう気にしないで。あ、今日もだけど。」
『また今度さ、どこかゆっくり行こうよ。』
「スマホ見た?」
冬の夜はとても静かで、闇が一段と暗く思える。
暖房が効いた車内でも、寝起きのパーカー姿では肌寒かった。
『…ごめん。見るつもりじゃなかったんだけど。』
トーンが下がった彼の声に、先程までは無理に明るく振る舞っていたんだと気付く。



