『もう、いつまで寝てるの。何度か起こしにきたのよ?』
「ごめん、気付かなくて。」
『青井さん待ってるわよ。』
「え?」
想像もしていなかった言葉に、速まっていた鼓動が止まったような感覚になる。
『今日は申し訳ないことをしたって、帰る前に謝りにきたんですって。もうあんたったら、責めたんじゃないでしょうね?お仕事だから仕方ないでしょう?』
どこかとがめるような口調で、だけど少し嬉しそうで。
私がまた誰かを好きになって、その人に大切にしてもらえていることに安心しているような。
「ねぇお母さん。」
『うん?』
「何度か起こしにきたって、お母さんが?」
開いたままのドアから、かすかに楽しげな声が聞こえてくる。
妹と、彼の。
父と兄はまだ帰っていないようだ。
『そうよ。最初は私で、次は青井さんが。まぁ青井さんはよく寝てるから起こさないでおきましたって言って降りてきたけど。』
「そう。」
会わなければ、と思った。
すぐに彼に会わなければ。
なのに足が動かなくて、彼の顔を見ることが怖い。



