『ごめん、嘘。そんなに気安く呼んだりしないから安心して。』
そっと青井さんの横顔を見ると、柔らかい笑顔の中に少し陰りがあるような気がした。
どんな風に接すればいいのか分からなくて、戸惑えば戸惑うほど先生のことを思い出してしまう。
先生の隣で、こんな風に不安になったことはなかった。
『はい、到着です。』
しばらく車を走らせてたどり着いたのは、レトロなレンガ造りのとてもおしゃれな建物だった。
「うわぁ、可愛い。」
『俺も来たことないんだけど、前通る度に気になってたんだよね。』
控えめにライトアップされた入り口から中に入ると、落ち着いた照明の温かな雰囲気が迎えてくれる。
自分では絶対に見つけることができない少し大人な空間に、無理をしてでも倫子さんに選んでもらった服を着て来て良かったと安堵する。
『何でも好きなの頼んでね。』
来たことがないと言っていたけれどとても慣れている様子の青井さんを見て、きっと普段から沢山デートしてるんだろうなと思う。
私なんてその内の1人でしかないと思ったら少し気持ちが楽になって、急に空腹を感じた。



