『青だと思った?』
「はい。…青井先生だから。」
ははっと笑う青井先生につまらないと思われていないか不安で、逃げるように窓の外に目を向ける。
『その先生っての、そろそろやめない?』
「え?」
『俺もう先生じゃないよ?』
「そっか。」
先生はずっと先生だった。
その関係でしかないと思っていた。
理瀬先生のことも、名前で呼んで良かったのかな…。
「じゃあ、青井さん?」
『遥太(ハルタ)でもいいよ。』
そういえば青井先生の名前は遥太だったなとぼんやりと思い出す。
青井先生はとても遠い人だった。
先生よりもずっと遠くて、手の届かないというよりも住む世界が違う人だと思っていた。
「やっぱり、青井さんで。」
今こんなに近くにいるのに遥太さんと呼べる程すぐ傍まで行ける気がしなくて、自分で線を引いてしまう。
いつかこの距離を近くに感じられる日が来るのだろうか。
『俺は明日実ちゃんって呼んでいい?』
「えっ?」
今日は驚いてばかりだ。
男性から名前で呼ばれるなんて、いつ振りだろう。



