あなたがいればそれでいい

鞄から、もう一枚写真を取り出す。



「これ、お父さんの宝物」



「・・・これ」



その写真に写るのは、赤ん坊を抱くお父さんと、その横で微笑む桜立のお母さん




「じゃあ、全部全部
俺の勘違い?」




「うん、だからもうあんな奴なんて言わないで」



「じゃあ、俺が今まで憎んできたものって、ぜんぶ
なんだったんだよ…」



「でも、憎んだから
今まで生きてこられたでしょ。お父さん、不器用だからそれしか思いつかなかったの」



「う、ん。あの人すっげー不器用。ほんとは、今も昔も、それだけは知ってた」



そう言って笑った桜立はの頬には暖かいものが流れていた。




「ごめん・・・姉ちゃんも、本当にごめん」





『姉ちゃん』まだ私のことをあまり知らなかった桜立が、私をそう呼んでいた。
泣きながら謝るその姿に、ああ弟ってこういうものなのかなって思った。
だからついつい抱きしめてしまったのは許してほしい。



「ノワ」




感動の場面に私でもわかるほど空気の読めない低い声



「ひぃ!!」




ああ、桜立が怯えてる。