それは、寒い冬の日
お父さん、もとい茂守 龍は、ある資産家だった。まあ、そうでもないと私を借りるなんてできないけど
お父さんは、唯一私を家族だと言って、守ってくれた人
名前のない私を彼は、「娘」と呼んでくれた。
そんな彼にお願いされた。



「もう、私の会社は持たないだろう」




元々ぎりぎりだったんだ。もとから向いてなかったんだ。不器用で、おひとよしで、余裕もないのに、私を助けようとしちゃうような人だったから。




「だから、桜立を絶望させてやってくれないか?」



「……え?」




一瞬、なにを言っているか分からなかった。




「どちらにせよ、売られるんだ。
一番よくて体だけだろう」




ああ、そういうことか
最悪殺される。だったら今のうちに縁を切って、他人になってしまおうと言うことか



「元々友人と無理を通してたてた会社で、簡単に妻には捨てられた。そしてこの間...その友人にも捨てられた。
そんな私に桜立だけは変わらずに
お父さん、お父さん、と手を握ってくるんだ...そんな桜立に私はなにも残していけない。
独りになった桜立は、独りで生きていかないといけない。
それがどれだけ、辛かろうと、苦しかろうと、それでもどうか、
どうか、生きていてほしいんだ。
...最後まで...我儘な親だと思うだろう。...本当にすまない。」



よく泣く人だったのに、その時は必死に我慢してた。きっと泣いてはいけないと、思ったんだろうね。
だから、桜立に全て教えた。女という生き物を、世界がどれだけ残酷かを、
桜立がたった一人で、なにもなくても生きていけるように。
そして、父さんは桜立を捨てた。
桜立の生と引き換えに