第二音楽室に着き、そっとドアを開けると、すぐに見えたのはしゃがみ込んでいる良子。
そんな良子の姿に目を開き、私は勢いよくドアを開けて良子に近寄る。

「りょ、良子?! ど、どうしたの?!」

「に……げて……」

「え?」

良子の言葉に首を傾げていると、後ろから「どうしたの?」という優しい声が聞こえてきた。
その声に振り返ると、胸元まである綺麗な黒髪に、深い緑色のワンピースを着ていて、グレーのセーターを羽織っている人が立っていた。
そして、首からは卒業生と書かれたネームプレートをさげている。

もしかして……。

「八坂海先輩……?」

「そうだけど……あなたは?」

「え、えっと、佐藤凛子です……」

私がそう自分の名前を言うと、先輩は少し目を丸くして、ニコッと笑った。

「そっか、あなたがりんごちゃんね!」

「私のこと知ってるんですか……? それと、凛子です」

八坂海先輩は「ちょっとね」とクスクスと笑っている。