ゆっくり目を開けると、ぼやけた天井がうっすら見える。
景色がやけに歪んで見えて、気味が悪い。
「これがないからでしょー?」
底抜けに明るい声が響いて、いつもの黒縁メガネのヘリが目に入る。
ようやく天井も白いことが確認できるくらいになった。
やけに明るい声は、深月と美冬だった。
テーブルの上には、トレーに載った野菜スープとパン、カフェオレがある。
「これ、私のお昼ご飯……?」
時計を見ると、短針と長身が重なる時間から、すでに30分以上経っていた。
私は、こんな時間まで眠っていたようだ。
そして、親切に彼女たちは、私の分のお昼ご飯を持ってきてくれたらしい。
「ありがとう」
「いいのいいの!
理名、ちゃんと食べなきゃね!
もう”女のコ”じゃなくて、『大人の女性』なんだから」
悪びれる様子もなくそう言う美冬。
そんな彼女を、深月が慌てて止める。
「美冬ったら!
もう、理名にはちゃんとまだ純粋でいてほしいんだから、口を滑らせちゃダメ!
妊娠出来る身体になったなんて言ったら……
あっ」
「口止めした本人が口滑らせたよ、珍しいこともあるものね」
私は、疑問を口にせずにはいられなかった。
どういうことなの?
妊娠?
つまり、新しい生命を宿すことが出来るようになったということ?
まだ、私は高校生なのだ。
それなのに、そんな事が出来るのか。
私がそれを口に出すと、呆れた様子を一切見せず、深月が説明してくれた。
「そういうこと。
さっきのは、赤ちゃんを産める準備が出来る身体になった証。
妊娠しないと、赤ちゃんのベッドとして準備してたものが血液と一緒に剥がれ落ちる。
つまり、生理がくれば、妊娠していない証拠にもなるわね。
そして、理名はもう、女のコ、ではなく、女性として扱われるようになったのよ。
たった今、ね」
「昔は、生理が来るとおめでたい、って事でお赤飯を炊いたりもしたのよー?」
伊藤先生が口を横やりを入れた。
「私は、父親に知られたくなかったから、バレないように、大好物の肉じゃがと鳥の竜田揚げ作ってもらうことでお祝いにしたのよ。
それと、伊藤先生?
その情報、古いですし余計ですから。
理名には、関係ない話ですし」
美冬の容赦ない言葉に、しょんぼりしたように肩を落とした伊藤先生。
時代が違うのよね、と呟いたのを、私は聞き逃さなかった。
そんな事を話しているうちに、休み時間は半分過ぎていて、急いで保健室のテーブルに置いてあるものを平らげた。
「美味しかった。
朝、遅刻しそうで。
急いで食べたくて品数少なくしたからお腹空いてたんだ」
「もう、理名ったら」
呆れたような美冬の声に被せるように、お礼を言った。
「二人とも、ありがとう。
私の好きそうなものを必死に選んでくれたんでしょ?
さすが、私の親友だね」
「理名が素直にお礼言ってる。
明日は嵐が来るのかな?
豪雨かな?」
「深月も美冬も!
そんな事言うなら前言撤回。
2人とも私の親友じゃないもん」
「冗談だってば!
私達親友でしょー?」
保健室には、女性4人の声がチャイムにかき消されるまで響いていた。
彼女たちと共に教室に戻った。
椎菜や麗眞くん、華恋に口々に大丈夫かと聞かれた。
ただの貧血だからと返すと、それならよかったと、皆が安堵する。
椎菜がノートを差し出してきた。
「持って帰って読んでいいからね?
これ、コピーだから」
そう言って手渡された紙切れをを素直に受け取る。
どうやら、私が保健室にいた間の授業のものらしい。
「ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
会話を遮るように、ガラリとドアが開く音と共に担任の教師が入ってきた。
「今日のロングホームルームは高校の委員会と体育祭の種目を決めるからな」
それだけを皆に告げてから、黒板に委員会名と体育祭で行われる種目を書いていく。
それが済んだ先生は、もう仕事はなくなったとばかりに、教卓近くのパイプ椅子に座って居眠りを始めた。
なんという、いい加減で生徒よりやる気のない先生なのだ。
野川ちゃんは、普段から眠そうにしているが、授業中には居眠りしたことはない。
そんな先生に構うことはないと、各々やりたいものがあれば、係名の横に名前を書くことになった。
陽花は、体育祭実行委員で決まりだ。
彼女が一番向いている。
そして、保健委員にはなぜか私が推された。
「理名が一番適任だよ」
私の中では、深月が適任だと思っていた。
「私は図書委員やることにする。
伊達に、家に書斎あるわけじゃないし」
家に、書斎? と思ったが、母がカウンセラーとなれば、心理学関連の書籍が並んだ書斎があるのもうなずける。
続々と決まっていく中、文化祭実行委員が決まらなかった。
「私、麗眞くんと椎菜ちゃんとかいいかもと思ってる」
「なんだかんだ、いろいろ面白いこと考えてくれそうだし」
「いいかも!」
「それいい!」
口々に、皆が賛成の意を唱える。
「皆がそういうなら、さ?」
「やってもいいかもね」
夫婦さながらの息ぴったりの返答により、委員会の割り振りは終了した。
次は体育祭の種目だ。
「騎馬戦、ムカデ競争、大縄跳び(全員必ず出場すること)
かぁ」
「鬼だ……」
私は、周囲に聞こえないよう、声量を抑えて呟いた。
勉強ばかりしていて、「ガリ勉ちゃん」と揶揄されたこともざらにある私。
運動能力は高いとは言えないことはわかっていた。
景色がやけに歪んで見えて、気味が悪い。
「これがないからでしょー?」
底抜けに明るい声が響いて、いつもの黒縁メガネのヘリが目に入る。
ようやく天井も白いことが確認できるくらいになった。
やけに明るい声は、深月と美冬だった。
テーブルの上には、トレーに載った野菜スープとパン、カフェオレがある。
「これ、私のお昼ご飯……?」
時計を見ると、短針と長身が重なる時間から、すでに30分以上経っていた。
私は、こんな時間まで眠っていたようだ。
そして、親切に彼女たちは、私の分のお昼ご飯を持ってきてくれたらしい。
「ありがとう」
「いいのいいの!
理名、ちゃんと食べなきゃね!
もう”女のコ”じゃなくて、『大人の女性』なんだから」
悪びれる様子もなくそう言う美冬。
そんな彼女を、深月が慌てて止める。
「美冬ったら!
もう、理名にはちゃんとまだ純粋でいてほしいんだから、口を滑らせちゃダメ!
妊娠出来る身体になったなんて言ったら……
あっ」
「口止めした本人が口滑らせたよ、珍しいこともあるものね」
私は、疑問を口にせずにはいられなかった。
どういうことなの?
妊娠?
つまり、新しい生命を宿すことが出来るようになったということ?
まだ、私は高校生なのだ。
それなのに、そんな事が出来るのか。
私がそれを口に出すと、呆れた様子を一切見せず、深月が説明してくれた。
「そういうこと。
さっきのは、赤ちゃんを産める準備が出来る身体になった証。
妊娠しないと、赤ちゃんのベッドとして準備してたものが血液と一緒に剥がれ落ちる。
つまり、生理がくれば、妊娠していない証拠にもなるわね。
そして、理名はもう、女のコ、ではなく、女性として扱われるようになったのよ。
たった今、ね」
「昔は、生理が来るとおめでたい、って事でお赤飯を炊いたりもしたのよー?」
伊藤先生が口を横やりを入れた。
「私は、父親に知られたくなかったから、バレないように、大好物の肉じゃがと鳥の竜田揚げ作ってもらうことでお祝いにしたのよ。
それと、伊藤先生?
その情報、古いですし余計ですから。
理名には、関係ない話ですし」
美冬の容赦ない言葉に、しょんぼりしたように肩を落とした伊藤先生。
時代が違うのよね、と呟いたのを、私は聞き逃さなかった。
そんな事を話しているうちに、休み時間は半分過ぎていて、急いで保健室のテーブルに置いてあるものを平らげた。
「美味しかった。
朝、遅刻しそうで。
急いで食べたくて品数少なくしたからお腹空いてたんだ」
「もう、理名ったら」
呆れたような美冬の声に被せるように、お礼を言った。
「二人とも、ありがとう。
私の好きそうなものを必死に選んでくれたんでしょ?
さすが、私の親友だね」
「理名が素直にお礼言ってる。
明日は嵐が来るのかな?
豪雨かな?」
「深月も美冬も!
そんな事言うなら前言撤回。
2人とも私の親友じゃないもん」
「冗談だってば!
私達親友でしょー?」
保健室には、女性4人の声がチャイムにかき消されるまで響いていた。
彼女たちと共に教室に戻った。
椎菜や麗眞くん、華恋に口々に大丈夫かと聞かれた。
ただの貧血だからと返すと、それならよかったと、皆が安堵する。
椎菜がノートを差し出してきた。
「持って帰って読んでいいからね?
これ、コピーだから」
そう言って手渡された紙切れをを素直に受け取る。
どうやら、私が保健室にいた間の授業のものらしい。
「ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
会話を遮るように、ガラリとドアが開く音と共に担任の教師が入ってきた。
「今日のロングホームルームは高校の委員会と体育祭の種目を決めるからな」
それだけを皆に告げてから、黒板に委員会名と体育祭で行われる種目を書いていく。
それが済んだ先生は、もう仕事はなくなったとばかりに、教卓近くのパイプ椅子に座って居眠りを始めた。
なんという、いい加減で生徒よりやる気のない先生なのだ。
野川ちゃんは、普段から眠そうにしているが、授業中には居眠りしたことはない。
そんな先生に構うことはないと、各々やりたいものがあれば、係名の横に名前を書くことになった。
陽花は、体育祭実行委員で決まりだ。
彼女が一番向いている。
そして、保健委員にはなぜか私が推された。
「理名が一番適任だよ」
私の中では、深月が適任だと思っていた。
「私は図書委員やることにする。
伊達に、家に書斎あるわけじゃないし」
家に、書斎? と思ったが、母がカウンセラーとなれば、心理学関連の書籍が並んだ書斎があるのもうなずける。
続々と決まっていく中、文化祭実行委員が決まらなかった。
「私、麗眞くんと椎菜ちゃんとかいいかもと思ってる」
「なんだかんだ、いろいろ面白いこと考えてくれそうだし」
「いいかも!」
「それいい!」
口々に、皆が賛成の意を唱える。
「皆がそういうなら、さ?」
「やってもいいかもね」
夫婦さながらの息ぴったりの返答により、委員会の割り振りは終了した。
次は体育祭の種目だ。
「騎馬戦、ムカデ競争、大縄跳び(全員必ず出場すること)
かぁ」
「鬼だ……」
私は、周囲に聞こえないよう、声量を抑えて呟いた。
勉強ばかりしていて、「ガリ勉ちゃん」と揶揄されたこともざらにある私。
運動能力は高いとは言えないことはわかっていた。