「そんなことないよ。
私をそんな、皆の中で一番スタイルいい子みたいに言わないでって。
完全に母親からの遺伝だし」

浴室だからか、いつもより高い椎菜ちゃんの声がした。

「え、そうなの?」

「うん」

「よかったら、今度、いつメンで来る?
私の家。
両親がいればラッキーで運がいいっていう感じだけど」

「いいの?
わーい!

「会えたらラッキー、って、椎菜ちゃんの両親どういう仕事してるのよ……」

各々、顔やら身体を白い泡で包む。

「え?
お母さんがモデルで、お父さんがデザイナーだけど」

「うえ?
マジで?」

同じクラスの女子の目線が、一斉に椎菜ちゃんに向いたのを感じた。

「なんで獣医になるのー?
正直、もったいないよ!

絶対、椎菜ちゃん、原宿とか渋谷とか歩いてたらスカウトされるって!」

「いやいや、椎菜ちゃんもだけど、理名ちゃんもでしょ」

そこで、なんで私の名前が出てくるの?
全く理解が及ばない。
私は関係ないはずだ。

幼児体型だし。
この通り、胸なんて「貧乳」を通り越してぺたんこだ。

各々、洗い終えて浴槽に浸かる。
昨日より大所帯だ。

一夜にして、こんなに関係が広がったことが実感できて、嬉しかった。

「で?
美冬ちゃん?
どうするの?
じゃなくて、どうしたいわけ?」

「うん。
それ言う前に、さ?
皆、私たちのこと、もう呼び捨てでいいよ」

「そうそう。
ちゃん付けとか、なんか親友じゃない感じ滲み出てるし」

「呼び捨てで呼べるのなら、私は心地いい。

フェア、というか、対等な関係に慣れた気がするから。

そういうところが、男の子っぽいって言われるんだよね、きっと」

「私はそれでいいよ?」

私が言って、深月ちゃんや椎菜ちゃんや碧ちゃんの方を向くと、各々が無言で頷いた。

「じゃあ、決まりね?」

「で、美冬?
話逸れたから戻すよ。
どうしたい? 

それによっては、さっき、麗眞が美冬の本当の気持ちを録音しておいてくれてる。

聞いた本人も聞いてるし、美冬とその、賢人くんをくっつけるのに協力してくれる。

世話焼きというかおせっかいだから、私から頼まなくてもやってくれるだろうし」

椎菜ちゃんが、さりげなく言った録音、という言葉に反応した。
そういえば、あの時の彼は、ウォークマンみたいな機械を右手で握りしめていた。

あれで、録音していたのか。
もしかして、本当はあれはICレコーダーだったのだろうか。

「わたし、は……
えっと、賢人に、せめて、小さい頃の約束覚えてるかだけは確かめたい。

その上で、ちゃんとゆくゆくは椎菜と麗眞くんくらいの関係になりたい」

椎菜ちゃんは、ちょっと目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。

そこで、図らずも自分の名前がすぐに出てきたことに驚いたのだろう。

私を含めた皆が、一様に微笑んだ。

それを聞いたところで、皆で浴槽から上がって脱衣場で着替える。

律儀に、下着まできちんと新しいものにしているのは女子力の高い椎菜、深月、美冬ちゃん、華恋だ。

椎菜に至ってはカップにプリーツチュールを被せた、白のセットアップ下着だ。

なんとなく、ブラジャーによって作られた谷間がハートの形に見える気がする。
そして、邪魔じゃないのか、中央にピンク色のチャームが存在している。

これもハート型だ。
麗眞くんを虜にする準備は万全、といったところか。
下着まで恋する乙女スイッチが全開だなぁ。
対して、その他大勢はノンワイヤーブラかノーブラだ。

この対比が虚しく感じたのは私だけなのだろうか。

今度は、ちゃんとロングの子もしっかり髪にドライヤーを当てていた。
美冬は、後に上がった女子達にドライヤーを譲っていた。

彼女はヘアアイロンという最強の道具を持っているから、ドライヤー不要というわけか。


皆で大浴場を出て、部屋に戻った。
夕食は、20時15分にレストランに集合して食べることになっている。

椎菜ちゃんの顔から笑みが消えないということは、麗眞くんからメールでも来たのだろう。

そんなこんなで、ヘアアイロンで髪を整えたりしていると、20時になっていた。皆でゾロゾロと、レストランに移動した。

レストランに入るなり、私たちを見つけて、麗眞くんが手招きしてきた。

すると、椎菜が美冬の手を引っ張って、他の皆は先に席を確保するように言った。

きっと、何か話があるのだろう。
美冬の想い人、賢人くんとやらの関係で。

数分して戻ってきた彼女は、顔を赤くするどころか青くして帰ってきた。

「どしたの?」

「先生が、夕食のあと来い、だって。
私、何かやらかしたのかなぁ……」

美冬ちゃんは、気配りが出来るいい子だ。
誰かと諍いを起こすなんて考えられない。
きっと、何かの間違いだ。

「私、先生に抗議してくる!」

席を立とうとした私を、椎菜が私の腕を掴んで止めた。
何か、理由があるの?

夕食を済ませて、彼女をレストランに残したまま部屋に戻った。