美冬ちゃんや華恋ちゃんが私たちの部屋に入ってきた。

「やほー!」

「椎菜ちゃん?
おかえりー!」

むぎゅっと、華恋ちゃんや美冬ちゃんに抱きしめられる彼女。

「こらこら、やめなさいってば。
彼女が抱きしめられたいのは未来の旦那さんでしょーが」

陽花ちゃんの言葉に、納得したように椎菜ちゃんから離れる。
そして私の手元にある紙に注目する。

「それね、椎菜ちゃんづてで、相沢さんが調べてくれたんだって。
これが、理名ちゃんの未来の彼氏の手がかりになればいいけど」

「華恋ちゃん!?
そしてまだ彼氏じゃない!」

この宿泊オリエンテーションに来てから、女友達の言葉に照れることが多くなった。
あ、と小さく声が上がったので、そちらに注目する。

「制服はこれっぽいね。
濃紺のブレザーにスラックス、エンジ色の斜め縞ネクタイ、ブラウスはストライプ」

美冬ちゃんの指差す方を見ると、確かにそれは昨日の朝の記憶とも、今日の夢の記憶とも一致する。

「私立グラジオ学園高校」とその下に記載があった。

……率直に思った。
ネーミングセンス悪っ……
その彼がその高校に通っていることは確からしい。

「椎菜ちゃんナイス!!
これでSNSで情報得れば完璧ね。
さっそく検索してみるわ」

美冬ちゃんが携帯電話の虫になり始めたのを横目で見ながら、ホッと胸をなでおろした。

「ところで、SNSってどんな感じなの?」

深月ちゃんが説明する。

「理名、アンタ、やってないの?
あのね、イー・マーキュリーって会社が提供しているサービスだよ!
私たちからの招待がないと参加は出来ないんだけど、登録者が今日の出来事をつぶやく機能があるの。
それだけじゃなくて親しい人同士でメッセージを送れたりする機能も付いているんだよ」

「へぇー」

深月ちゃんが親切に、実際に私を招待しながら説明してくれた。
ニックネームやら生年月日、学校名まで打ち込んで、登録をする。
プロフィール欄に、同じ高校の人が一覧表示されている。
だから高校名を打ち込ませる欄があったのかと納得する。

より、繋がりやすくするために。
これで、ここのところ、ずっと胸に引っかかっている数日間のモヤモヤが晴れるかもしれないのだ。
すると、美冬ちゃんが声をかけてきた。

「理名ちゃんー!
こんなつぶやき見つけたよ?」

美冬ちゃんの言葉に、彼女のスマホの画面を覗き込んだ。

『友達が、高校に向かう電車の中で重そうなキャリーバッグ持ってる女の子を助けたそうだ。
満員電車で持ってるから、白い目で見られててほっとけなかったから。

しかも、その子、ボーダーのシャツにサロペットっていう格好で、結構タイプだったってさ。

眼鏡かけてて、いかにも真面目そうな優等生って感じにも惹かれたって。

羨ましいー。
俺もそういうカッコイイことしたいわ。』

………。

文脈から察するに、これを呟いたのはその人の友達らしい。

「ビンゴ!
理名ちゃん、当日、こんな格好だったし!」

「美冬ちゃん、どうやって友達探せばいいのか教えて」

私が美冬に自らのメールアドレスを教えればいいようだ。

そして、すぐに通知が来て、くまのぬいぐるみ同士をくっつけた画像が目を引くプロフィールが出てきた。

これが美冬ちゃんのものらしい。

「ちょっと待ってね、理名ちゃん。
詳しく聞いてるから」

『突然返信してしまい、ごめんなさい。
助けてもらった側の女の子の友達です。
その、助けた人ってどんな人ですか?』

美冬ちゃん、ちゃっかり聞いてるし。
情報を聞き出すには、これくらいしなきゃいけないようだ。
恋のリサーチって、労力を使うんだなぁ。

『医者目指してるイケメンくんですよー。
申請して下されば、メッセージで詳しく教えます。』

『お返事ありがとうございます!
申請しますね!
お願いします!』

美冬ちゃんが何やら操作をしていたが、おお、と言って私にスマホの画面を見せた。

「医者を目指してるイケメンな男の子です。
名前は、『桐原 拓実《きりはら たくみ》』ですよー。
丁寧に、画像まで添付されていた。

ストレートな茶髪が目を引くその顔は、あの日に、電車で会った人そのままだった。

「医者目指してるイケメンくんだってさー。
なかなかシャレた名前の男の子じゃん。
拓実だって。
あら、麗眞くんには負けるけど、それでもイケメン!
理名にはもったいないー!」

美冬の言葉に反応して、皆が一斉に、彼女の携帯電話を覗き込んだ。
それを見た皆が、一様に色めき立った。

桐原拓実くん、か。
なかなか、いい響きの名前だ。

「あ」

美冬ちゃんが声をあげる。

「理名ちゃん、私の友達一覧見て、一番上から2番目の人申請して?

その人、さっきメッセージくれた拓実くんの知り合いなんだ。

そしたら会話も見られるし、何より、おそらく拓実くん本人から返信来てる」

『こらこら、いろいろ話すなよ?
恥ずかしいじゃん。
変に警戒されても困るし。
何より、お前が友達の情報をすぐ教える口の軽い人だってレッテル貼られるんだぞ』

情に厚いところは、麗眞くんそっくりだと思った。
横から華恋ちゃんが私と美冬ちゃんのやりとりを見ていたらしい。

華恋ちゃんが、私のスマホをロックを解除させて奪う。
その男の人、つまりは拓実くんへの友達申請申請ボタンを選択したらしい。

「こんにちは、初めまして。
あの日、電車内で助けてもらった者です。
あの時はありがとうございました!」

返信までしてしまっている。


ちょっとー!

「理名ちゃん、いい加減現代風にアプローチしなきゃね?
出会いは待ってるだけじゃダメだよ?
便利な文明の利器を使わなきゃ!
いつまでもアナログじゃダメだぞ!

皆がミニパソコン持ってるようなもんなんだからね!」

「そうだよ、理名ちゃん!
頑張れ!」

椎菜ちゃんにまで、応援されてしまった。
盛り上がっていたのもつかの間。

「ねぇ、皆?
セミナールームで講演だか講義だかがあるんだけど、あと5分で始まるよ?」

野川ちゃんの言葉で、その場の空気が凍りついた気がした。
それ、もう少し早く言おうよ!