私たちが割り当てられた、「210」と書かれた部屋の前。
そこに立ってカードキーを差し込むと、なんの面白みもない金属音がした。
なるべく音を立てないように、そっと部屋のドアを開けてみる。
「理名ちゃん?」
「あ、理名ちゃん!
おかえりー!」
深月ちゃんにぎゅーっと抱きしめられた。
私よりあるムネ、当たってるんだけど……
「昨日の夜にね、相沢さんが私たちの部屋に来たのよ。
椎菜ちゃんの経過が良くて今日の午前中には戻れることとか、理名ちゃんや麗眞くんが伊藤先生の部屋にいることも聞いたの。
だから知ってたよ?
そのことを、一番に美冬ちゃんや華恋ちゃんにも教えたから、もちろん皆知ってるし」
「そうだったんだ……」
執事って、すご……
「でさ、深月ちゃん。
ババ抜き、一番弱かったの誰なのー?」
「ああ、そうそう。
ほんとは、あの時に掛けた電話で言いたかったの。
陽花ちゃんだよ、負けたの。
野川ちゃんと陽花ちゃんの間で、見てるこっちもワケわかんなくなりそうなくらい、ジョーカーが行ったり来たりして、お腹痛くなるくらい笑ったんだから!」
「理名ちゃん、部屋入った方がいいよ?」
碧ちゃんの声に、後ろを振り向くと、私の背中に美冬ちゃんが抱きついていた。
「理名ちゃん、おかえり!
ほんと、理名ちゃんも見ていられればよかったのに、あのババ抜き!」
「でも、お疲れ様、理名ちゃん。
相沢さんから聞いたよー?
理名ちゃんの聴診器使うの手さばきとか、自分の亡きお母さんの勤めていた病院に、電話掛ける段取りまで素早かったって」
「そんなこと言ってたの?
ありがと。
なんか照れるなぁ。
あの時は、ただ夢中だったから……」
そこまで言って、はたと気付いた。
母も、昨夜の私と同じように、ただ夢中で、患者を助けていただけなのだ。
患者を助けることが責務になり、一番に優先すべきことになる。
約束が反故になることを気にしている場合ではないのだ。
母は職業柄、当然のことをしたまでであって、レストランに行くという約束を破られた私が文句を言える立場ではないし、そのようなことをする筋合いもないのだ。
「理名ちゃん?
どうしたのー?
おーい!」
深月ちゃんに顔の前で何度も手を振られて、やっと我に返った。
「どうしたの?
上の空だよ?
やっぱりお疲れなんだね、ちょっと寝る?
起床時間まであと30分あるし。
野川ちゃんより眠そうな顔してるもん」
わらわらと入ってきた、美冬ちゃんや華恋ちゃんにもそう言われたけれど、拒否した。
「今寝ちゃったら、多分朝食の時間にきちんと起きられないし、大丈夫。
ありがと」
「そっか」
「そういえばさ、相沢さんから聞いたけど、理名ちゃん、眼鏡掛けたまま寝てたの?
どんな夢みてたのよ」
華恋ちゃんの言葉に、目を丸くした。
「華恋ちゃんたちのところにも来たの?」
「うん。
朝には理名ちゃんと会えるってことを伝えに来ただけだったけれど」
「理名ちゃん、どんな夢みてたの?
気になるー」
「夢に出てきたのが噂の、まだ見ぬ王子様だったり?」
私は、美冬ちゃんの問いにすぐには答えなかった。
……それなのに。
「やっぱりそうなんだね、理名ちゃん!
バレバレだよ?」
なぜバレたのか。
そんな素振りは何も見せなかったはずなのに。
そんなに、顔に出てしまっていたのか。
医師及び看護師は、常に冷静な対応を求められる。
私には、勉強よりもポーカーフェイスの練習が必要なようだ。
「理名ちゃんの夢でのまだ見ぬ王子様の話聞きたい人この指とーまれ!」
華恋ちゃんの指に私以外の全員が飛びついた。
私の心の動揺なんてそっちのけで、話は進んでいく。
「はいきーまり。
理名ちゃん?
観念して話してもらうよ?」
「理名ちゃん、図星をつかれたとき、眉間に皺が寄るんだよね。
そのクセが分かれば、簡単だよ。
理名ちゃん、わかりやすいし」
そういうことか。
誰か、眉間に皺を寄せないようにする方法を教えてほしい。
まぁ、バレてしまったものは仕方がない。
なぜか私は、皆の円の中心に正座する形で話し始めた。
そこに立ってカードキーを差し込むと、なんの面白みもない金属音がした。
なるべく音を立てないように、そっと部屋のドアを開けてみる。
「理名ちゃん?」
「あ、理名ちゃん!
おかえりー!」
深月ちゃんにぎゅーっと抱きしめられた。
私よりあるムネ、当たってるんだけど……
「昨日の夜にね、相沢さんが私たちの部屋に来たのよ。
椎菜ちゃんの経過が良くて今日の午前中には戻れることとか、理名ちゃんや麗眞くんが伊藤先生の部屋にいることも聞いたの。
だから知ってたよ?
そのことを、一番に美冬ちゃんや華恋ちゃんにも教えたから、もちろん皆知ってるし」
「そうだったんだ……」
執事って、すご……
「でさ、深月ちゃん。
ババ抜き、一番弱かったの誰なのー?」
「ああ、そうそう。
ほんとは、あの時に掛けた電話で言いたかったの。
陽花ちゃんだよ、負けたの。
野川ちゃんと陽花ちゃんの間で、見てるこっちもワケわかんなくなりそうなくらい、ジョーカーが行ったり来たりして、お腹痛くなるくらい笑ったんだから!」
「理名ちゃん、部屋入った方がいいよ?」
碧ちゃんの声に、後ろを振り向くと、私の背中に美冬ちゃんが抱きついていた。
「理名ちゃん、おかえり!
ほんと、理名ちゃんも見ていられればよかったのに、あのババ抜き!」
「でも、お疲れ様、理名ちゃん。
相沢さんから聞いたよー?
理名ちゃんの聴診器使うの手さばきとか、自分の亡きお母さんの勤めていた病院に、電話掛ける段取りまで素早かったって」
「そんなこと言ってたの?
ありがと。
なんか照れるなぁ。
あの時は、ただ夢中だったから……」
そこまで言って、はたと気付いた。
母も、昨夜の私と同じように、ただ夢中で、患者を助けていただけなのだ。
患者を助けることが責務になり、一番に優先すべきことになる。
約束が反故になることを気にしている場合ではないのだ。
母は職業柄、当然のことをしたまでであって、レストランに行くという約束を破られた私が文句を言える立場ではないし、そのようなことをする筋合いもないのだ。
「理名ちゃん?
どうしたのー?
おーい!」
深月ちゃんに顔の前で何度も手を振られて、やっと我に返った。
「どうしたの?
上の空だよ?
やっぱりお疲れなんだね、ちょっと寝る?
起床時間まであと30分あるし。
野川ちゃんより眠そうな顔してるもん」
わらわらと入ってきた、美冬ちゃんや華恋ちゃんにもそう言われたけれど、拒否した。
「今寝ちゃったら、多分朝食の時間にきちんと起きられないし、大丈夫。
ありがと」
「そっか」
「そういえばさ、相沢さんから聞いたけど、理名ちゃん、眼鏡掛けたまま寝てたの?
どんな夢みてたのよ」
華恋ちゃんの言葉に、目を丸くした。
「華恋ちゃんたちのところにも来たの?」
「うん。
朝には理名ちゃんと会えるってことを伝えに来ただけだったけれど」
「理名ちゃん、どんな夢みてたの?
気になるー」
「夢に出てきたのが噂の、まだ見ぬ王子様だったり?」
私は、美冬ちゃんの問いにすぐには答えなかった。
……それなのに。
「やっぱりそうなんだね、理名ちゃん!
バレバレだよ?」
なぜバレたのか。
そんな素振りは何も見せなかったはずなのに。
そんなに、顔に出てしまっていたのか。
医師及び看護師は、常に冷静な対応を求められる。
私には、勉強よりもポーカーフェイスの練習が必要なようだ。
「理名ちゃんの夢でのまだ見ぬ王子様の話聞きたい人この指とーまれ!」
華恋ちゃんの指に私以外の全員が飛びついた。
私の心の動揺なんてそっちのけで、話は進んでいく。
「はいきーまり。
理名ちゃん?
観念して話してもらうよ?」
「理名ちゃん、図星をつかれたとき、眉間に皺が寄るんだよね。
そのクセが分かれば、簡単だよ。
理名ちゃん、わかりやすいし」
そういうことか。
誰か、眉間に皺を寄せないようにする方法を教えてほしい。
まぁ、バレてしまったものは仕方がない。
なぜか私は、皆の円の中心に正座する形で話し始めた。



