あれから大量の紙袋を抱えていたため、身体のバランスが取れず、何度もよろけながら家に帰った。
これも、いい思い出だ。
父親はどこかに出かけたようで、家にはいなかった。
まぁ、帰ってきていて紙袋の中身を詮索されるのも迷惑だ。
いないならいないほうが気分がいい。
しばらくしてから自室に戻り、クローゼットを開けた。
紙袋の中身を丁寧に出して、新しく仲間入りした服が手持ちのものと合うかどうか試した。
どれも、合わないということはなかった。
むしろ、手持ちの服にこそ馴染んだ。
私服は、Tシャツやトレーナーが多い。
上にサロペットを着るのは、手っ取り早くオシャレに見せることが出来る。
スウェット素材のマキシ丈ワンピースも、背が高い身長のおかげで、難なく着こなすことができそうだ。
椎菜ちゃんは、他人のクローゼットの中身が分かる能力でも身につけているのかと思うほどだった。
そんなことはあり得ないので、おそらくモデルである母の血を引いているがゆえなのだろう。
改めてお礼を言おうと電話をした。
彼女はまだ帰っていないのか出なかった。
疲れたのか、あの後の私は、お風呂にも入らないまま、布団もかけずに眠ってしまったらしい。
翌朝、8時過ぎに目が覚めた。
目を開けると、枕元に置いた青いスマホの画面には「不在着信」と出ていた。
アプリを開くと、椎菜ちゃんの名前が表示されていた。
昨日の電話に出られなかったから、彼女の方からかけ直して来たのかもしれない。
私も急いで掛け直す。
朝の10時過ぎ。
学校の癖で早起きの習慣もついており、明日の宿泊オリエンテーション当日も8時集合だ。
この時間には起きているだろう。
「もしもし?」
『あ、理名ちゃん?
おはよ!
昨日はたくさん連れ回したから疲れちゃったよね。
ごめんね?
昨日、あれから帰り際に麗眞に会ってさ。
家に泊まってたから、電話出られなかったの。ごめんね?』
「おはよ、椎菜ちゃん。
んーん、大丈夫だよ」
そう答えながら、考える。
麗眞くんと一緒にいたなら、私からの電話だと知ったら出ることはできたはずだ。
私は彼にとっても友達なのだから。
後ろめたいことなんて、何もないはずだ。
じゃあ、麗眞くんと何かあったの?
昨日の椎菜ちゃんが買っていたものに関係があるのだろうか。
『理名ちゃんに言うことじゃないかもしれないし、惚気になっちゃうんだ。
でも聞いてくれる?
やっぱり最後までは、まだ未遂だけど……
最後に近いところまでは、してくれたの……!
勝負下着の効果って、すごいんだなぁ、って思ったよ』
普段の椎菜ちゃんからは想像がつかないくらいに、だんだん言葉尻がしぼんでいっている。
嬉しい反面、恥ずかしいという気持ちもあるんだろう。
「そういうとこ、ほんとに真面目ね。
麗眞くん」
そういう、椎菜ちゃんと麗眞くんみたいな経験は0だけれども、知識はそれなりにある。
未遂に終わらなかったとしたら起こりうる可能性まできちんと頭に浮かぶ程度には。
一応、理科の授業と保健体育の授業で聞いたことはあるのだ。
義務教育課程はとっくに終えている。
そして、曲がりなりにも看護師の娘だ。
「ちゃんと、椎菜ちゃんを気遣って、大事にしてくれてるってことじゃない」
『でも、いつかは、ねぇ……?
ずっと未遂は、ちょっと……困る、かな。
発展する気がないのかな、って思っちゃう』
「麗眞くんのことだもん、きっと何かあるんでしょ?
いろいろ考えてそうだし。
信じて待っててあげるのも、必要なんじゃないかな?」
『うん、理名ちゃんがそう言うなら、待ってみる。
ありがとう。
理名ちゃん、長々とごめんね?
明日から楽しもうねー!
ばいばいっ!』
明るい声色の後の、無機質な音と共に電話が切れた。
2人を見ていると、つくづく思う。
幸せそうだ、と。
あのような関係に、いつかなれる日が来るのだろうか。
そして、私の亡き母と、今現在はどこかに出かけているであろう父も、そんな関係になれていたのだろうか。
そう考えると、笑みがこぼれた。
ベッドにもう一度寝転がり、朝ごはんを食べていない事実も忘れたまま、まだ見ぬ男の人を頭の中に描く。
目を覚ますと、時計がちょうどお昼のチャイムを鳴らした1時間後だった。
リビングに降りると、いつの間にか帰っていた父がコンビニ弁当を広げていた。
「おう、理名。
おはよう。
明日に向けて寝溜めか?」
「まぁ、そんなところ。
疲れるし。
明日も、6時45分には家を出なきゃいけないんだよね」
学校までは、最寄り駅から歩く時間を含めて50分かかる。
いつもは身軽だからいいが、明日は重い荷物を詰めたキャリーバッグを引いて歩かねばならない。
時間には余裕を持たなくてはいけない。
遅刻したらシャレにならない。
そんな会話をしながら父と二人で、ろくに目を合わせないままコンビニ弁当をつついた。
食べ終わると、2階に上がって、まずはキャリーバッグに宿泊オリエンテーションのための荷物を詰めた。
2泊だけれど服はなるべく最小限に。
ジーンズサロペットとケミカルデニムロンパースにタイツ、さらに昨日買ったトップスやブラウスを入れた。
インナーを替えれば、印象をがらりと変えることは可能。
下着ももちろん、昨日買ったもの。
その作業を終えた後、部屋のクローゼットに保管してある、昨日買った何通りにも使用可能なバッグをショルダータイプにした。
これで、両手が空く。
キャリーバッグを持つこともあり、なるべく身軽にしておきたい。
肩が疲れたら、紐を通して、リュックにすれば、負担は減るだろう。
宿泊学習のしおりや、筆記用具、学生証、タオルや飲み物などはそれに入れていった。
詰め終わったところで、荷物のせいで少しだけ狭くなった部屋のベッドで眠った。
これも、いい思い出だ。
父親はどこかに出かけたようで、家にはいなかった。
まぁ、帰ってきていて紙袋の中身を詮索されるのも迷惑だ。
いないならいないほうが気分がいい。
しばらくしてから自室に戻り、クローゼットを開けた。
紙袋の中身を丁寧に出して、新しく仲間入りした服が手持ちのものと合うかどうか試した。
どれも、合わないということはなかった。
むしろ、手持ちの服にこそ馴染んだ。
私服は、Tシャツやトレーナーが多い。
上にサロペットを着るのは、手っ取り早くオシャレに見せることが出来る。
スウェット素材のマキシ丈ワンピースも、背が高い身長のおかげで、難なく着こなすことができそうだ。
椎菜ちゃんは、他人のクローゼットの中身が分かる能力でも身につけているのかと思うほどだった。
そんなことはあり得ないので、おそらくモデルである母の血を引いているがゆえなのだろう。
改めてお礼を言おうと電話をした。
彼女はまだ帰っていないのか出なかった。
疲れたのか、あの後の私は、お風呂にも入らないまま、布団もかけずに眠ってしまったらしい。
翌朝、8時過ぎに目が覚めた。
目を開けると、枕元に置いた青いスマホの画面には「不在着信」と出ていた。
アプリを開くと、椎菜ちゃんの名前が表示されていた。
昨日の電話に出られなかったから、彼女の方からかけ直して来たのかもしれない。
私も急いで掛け直す。
朝の10時過ぎ。
学校の癖で早起きの習慣もついており、明日の宿泊オリエンテーション当日も8時集合だ。
この時間には起きているだろう。
「もしもし?」
『あ、理名ちゃん?
おはよ!
昨日はたくさん連れ回したから疲れちゃったよね。
ごめんね?
昨日、あれから帰り際に麗眞に会ってさ。
家に泊まってたから、電話出られなかったの。ごめんね?』
「おはよ、椎菜ちゃん。
んーん、大丈夫だよ」
そう答えながら、考える。
麗眞くんと一緒にいたなら、私からの電話だと知ったら出ることはできたはずだ。
私は彼にとっても友達なのだから。
後ろめたいことなんて、何もないはずだ。
じゃあ、麗眞くんと何かあったの?
昨日の椎菜ちゃんが買っていたものに関係があるのだろうか。
『理名ちゃんに言うことじゃないかもしれないし、惚気になっちゃうんだ。
でも聞いてくれる?
やっぱり最後までは、まだ未遂だけど……
最後に近いところまでは、してくれたの……!
勝負下着の効果って、すごいんだなぁ、って思ったよ』
普段の椎菜ちゃんからは想像がつかないくらいに、だんだん言葉尻がしぼんでいっている。
嬉しい反面、恥ずかしいという気持ちもあるんだろう。
「そういうとこ、ほんとに真面目ね。
麗眞くん」
そういう、椎菜ちゃんと麗眞くんみたいな経験は0だけれども、知識はそれなりにある。
未遂に終わらなかったとしたら起こりうる可能性まできちんと頭に浮かぶ程度には。
一応、理科の授業と保健体育の授業で聞いたことはあるのだ。
義務教育課程はとっくに終えている。
そして、曲がりなりにも看護師の娘だ。
「ちゃんと、椎菜ちゃんを気遣って、大事にしてくれてるってことじゃない」
『でも、いつかは、ねぇ……?
ずっと未遂は、ちょっと……困る、かな。
発展する気がないのかな、って思っちゃう』
「麗眞くんのことだもん、きっと何かあるんでしょ?
いろいろ考えてそうだし。
信じて待っててあげるのも、必要なんじゃないかな?」
『うん、理名ちゃんがそう言うなら、待ってみる。
ありがとう。
理名ちゃん、長々とごめんね?
明日から楽しもうねー!
ばいばいっ!』
明るい声色の後の、無機質な音と共に電話が切れた。
2人を見ていると、つくづく思う。
幸せそうだ、と。
あのような関係に、いつかなれる日が来るのだろうか。
そして、私の亡き母と、今現在はどこかに出かけているであろう父も、そんな関係になれていたのだろうか。
そう考えると、笑みがこぼれた。
ベッドにもう一度寝転がり、朝ごはんを食べていない事実も忘れたまま、まだ見ぬ男の人を頭の中に描く。
目を覚ますと、時計がちょうどお昼のチャイムを鳴らした1時間後だった。
リビングに降りると、いつの間にか帰っていた父がコンビニ弁当を広げていた。
「おう、理名。
おはよう。
明日に向けて寝溜めか?」
「まぁ、そんなところ。
疲れるし。
明日も、6時45分には家を出なきゃいけないんだよね」
学校までは、最寄り駅から歩く時間を含めて50分かかる。
いつもは身軽だからいいが、明日は重い荷物を詰めたキャリーバッグを引いて歩かねばならない。
時間には余裕を持たなくてはいけない。
遅刻したらシャレにならない。
そんな会話をしながら父と二人で、ろくに目を合わせないままコンビニ弁当をつついた。
食べ終わると、2階に上がって、まずはキャリーバッグに宿泊オリエンテーションのための荷物を詰めた。
2泊だけれど服はなるべく最小限に。
ジーンズサロペットとケミカルデニムロンパースにタイツ、さらに昨日買ったトップスやブラウスを入れた。
インナーを替えれば、印象をがらりと変えることは可能。
下着ももちろん、昨日買ったもの。
その作業を終えた後、部屋のクローゼットに保管してある、昨日買った何通りにも使用可能なバッグをショルダータイプにした。
これで、両手が空く。
キャリーバッグを持つこともあり、なるべく身軽にしておきたい。
肩が疲れたら、紐を通して、リュックにすれば、負担は減るだろう。
宿泊学習のしおりや、筆記用具、学生証、タオルや飲み物などはそれに入れていった。
詰め終わったところで、荷物のせいで少しだけ狭くなった部屋のベッドで眠った。