浴場では、その話題で持ちきりだった。
「それで?
美冬は何て返事したわけ?
まさか、あんな誠意のあるプロポーズを断った、わけじゃないでしょうね?」
「そうそう。
私と麗眞は海外と国内の遠距離恋愛になっちゃうからなー。
美冬が羨ましい。
私も麗眞にプロポーズされたかったー!」
「断ってないよ?
私で良ければ、喜んでお受けします。
お互い、夢を叶えられるように頑張ろう。
そう言ったの」
実は、誰が先にプロポーズするかで賭けてたんだよねー!
ほとんどが椎菜と麗眞くんペアに賭けてたよ。
私と深月が美冬と小野寺くんに賭けてたからね。
次に会える機会の成人式のときに、何か奢ってねー!
それと、ウェディングプランナーになって最初に受け持つの、美冬と小野寺くんの挙式がいいから!
頑張らなくちゃね」
華恋が水面をパシャパシャと叩きながら言った。
この人たち、他にもいろいろ賭けてた気がするのは、私の思い過ごしかな……
脱衣所で着替えるときに、美冬が小野寺くんから渡されたという婚約指輪を見せてくれた。
S字カーブが美冬の細い指によく似合っていて、真ん中のダイヤモンドが輝く様が儚げに見える。
私も、いつか拓実にプロポーズされる日が来るのかな。
拓実なら、どんな台詞を紡いで、一生を添い遂げる覚悟を与えさせてくれるのだろう。
「いいなぁ。
奥さんだけに負担かけさせないために、自分も料理習ってくれる旦那とか最高じゃん?」
「自分の旦那だってそうじゃん?
大学は深月の通う所から近いところを選んで、送り迎えするために車の免許取ってくれるなんて。
いい旦那で羨ましい」
湯上がりと言うには厳しいくらい顔を真っ赤にしたのは深月だ。
まだ旦那ではない、などと野暮なツッコミも、する気にならないらしい。
彼女がここまで照れるのは珍しい。
夕食会場では、加賀野菜と新鮮な海鮮を使った和会席を楽しんだ。
食事亭での夕食なんて、あまり経験がないので所作に迷った。
「丹精込めて俺たちの為に作った料理なんだ。
ちゃんと今日の近江市場でのアネさんみたいに美味しそうに食べてればそれでいいんだよ」
拓実に言われて気が楽になった。
美冬は、前は偏食気味だったと記憶している。
少しずつ食わず嫌いを克服するようになってきているようだ。
これも、小野寺くんのおかげかな。
椎菜は相変わらず少食だが、一時期より食べる量は少し増えたという。
食べきれない分は、麗眞くんや琥珀がさり気なく自分の分として平らげていた。
食事を終えると、きちんと人数分の布団が敷かれていた。
「こういうところ、旅館!って感じよね!
ドイツでの修学旅行ではベッドだったから、新鮮!」
深月や美冬は久しぶりの布団に大はしゃぎだ。
部屋がノックされて、ドアを開けると、浴衣を着た拓実がそこにいた。
「せっかくなんだし、2人で過ごしてくればいいじゃない。
ずっと離れてたんだもの、話したいこともたくさんあるでしょ?
ほら、行ってくる!」
グイグイと、華恋に背中を押される。
深月や美冬、椎菜に頑張って!と言われた。
頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだが、はぐれないように拓実の手を握って、部屋に向かう。
エレベーターに乗って着いた先は、露天風呂付き客室の部屋だった。
相沢さんが、私たちの時間を邪魔しないようにと使っている部屋のようだ。
いいのかな、相沢さん……
「相沢さんには許可貰ってるから。
あの卒業式後の集まりの、あんなキスじゃ足りない。
あの修学旅行の日に出来なかったことしたい。
いいよね?
理名」
生唾を飲み込んだ音が、拓実に聞こえてやしないかとドキドキした。
ついに、椎菜や麗眞くん、深月や秋山くんみたいなこと、するんだ……



