どんちゃん騒ぎも、ずっと輪に入り続けると疲れてくる。

かと言って、せっかくの楽しい宴の最中に、疲れた顔は見せたくない。

「理名、何か疲れてきた?

バルコニーで風に当たって来るといいかもよ」

椎菜の助言をありがたく受け取り、相沢さんにバルコニーへと案内された。

まだ3月とはいえ、夜になると冷たい夜風が身に沁みる。

だが、それがどんちゃん騒ぎで昂ぶった心をいくらか鎮めてくれた。

トントン、と後ろから肩を叩かれて、懐かしい香りがした。

この香りを感じるのは、修学旅行以来だ。

「卒業おめでとう、理名。

やっとこっちに帰ってこれたよ。

空港着いたら、圭吾と相沢さんがいるんだもん。

あれよあれよという間に車に乗せられて、気が付いたらここに。

これからはちゃんと、同じ大学で恋人として宜しくね、理名。

他の男に目移りとか、させないから」


「拓実……!

会いたかった……!

もう!
大学合格したならその連絡くらいくれても良かったじゃない!」

「ん、俺も。
理名のこと考えない日はなかったし。

連絡しなかったのはごめん。

サプライズで驚かせたくてね。

麗眞やアネさんから、卒業式と卒業旅行の日取りは聞いてたから。

俺も参加させて貰うね。

金沢への卒業旅行。
宜しく」

腕を引かれて、そのまま拓実の胸板にすっぽりと収まる。

「会いたかった。

これからは、ずっと一緒だよ」

その言葉の直後に、唇に柔らかい感触を感じた。

「会えなかった分、こんなんじゃ足りない。

卒業旅行の時、覚悟してね?

理名の初めて、貰うね?

そろそろ会場に戻るか。

夜風は気持ちいいくらいだけど、身体冷えて風邪引かれても困る」

涼しい夜風に当たっているはずなのに、火照った身体の熱が冷める気配がない。

さっきの拓実の台詞のせいだ。

どこまでズルい人なんだろう。

卒業祝いに、と駆けつけた麻紀さんや真さん。

彼らに料理を習っていたという秋山くんに小野寺くんも手伝って、テーブルにひしめく豪華な料理にに舌鼓を打った。

「卒業旅行の準備もあるし、遠い人は相沢が送ってくれるから、車に乗るように!

夜更ししてのトークや各々のカップル同士のイチャイチャは、卒業旅行に取っておけよー」

今日はいつものように泊まるのではなく、夜で解散となった。

麗眞くんの鶴の一声によるものだ。

それもそのはず、金沢旅行は、明後日から2泊3日なのだ。

しかも、金沢から昼に加賀に移動するので、行きは片道だけ夜行バスで行く。

帰りは新幹線だ。
朝食と夕食、夜以外は自由行動らしい。

女子らしく、浴衣をレンタルして茶屋街をそぞろ歩く組と。

近江市場で海鮮ものに舌鼓を打って、後は金沢駅から近いところにあるカフェで一服するプランに分かれるのだという。

海外生活が長かった拓実が、海鮮が恋しいというので、私も近江市場で海鮮ルートに乗ることにした。

琥珀と巽くん以外は、浴衣でそぞろ歩きプランを選択したらしい。

さすが、女子力高い組は違うなぁ。