放送部の甲子園と呼ばれる大会での、美冬の司会の様子が気になった。

私は深月や華恋と共に会場に足を運んでいた。

会場で席を探していると、見覚えのある顔と目が合ったりもした。

担任の新澤先生だ。

なんでここにいるのだろう。

「大事な生徒の、最後の部活動の晴れ舞台なのよ?

学校に推薦状を書く担任としては、気になるじゃない?」

「やけに、彼女に肩入れするんですね。

まぁ、美冬なら大丈夫でしょう。

彼女の頑張りなら、俺が一番近くで見てきましたから」

さり気なく惚気けるのは、美冬の彼氏の小野寺くんだ。

いつの間に来ていたんだろう。

準優勝、という悔しい結果に終わっても、他の優勝校を讃えていた。

そして、場に合った声色でアナウンスをしていく様は、立派なプロのアナウンサーのようだった。

会場を出た美冬は、晴れ晴れとした顔をしていた。

「私の放送部としての活動は、これで終わり。

優秀な後輩ちゃんに部長の座は明け渡したし、何も悔いはない。

最高にいい青春だったなぁ。

改めて、この学園の、この放送部にいられてよかった」

「その言葉、理事長に聞かせてあげたいわね。

関口さん、お疲れ様。

同じ部員かつ恋人として、関口さんを支えていた小野寺くんもよ。

2人が放送部を牽引していた、といっても過言ではないわね。

2人の活躍は、しっかり伝わるように推薦状を書くわ。

私に任せて」

新澤先生の言葉に、ほんの一筋頬に流れた涙を拭ってから、美冬はにっこりと微笑んだ。

身体をくの字に折り曲げて、新澤先生や私達、一緒に努力をした後輩たちに、感謝の意を示した。

「美冬の労をねぎらうお疲れ様会は、また日を改めて皆でやろう!

きっと夏休み明けの始業式で表彰されるだろうから、そのときにでも。

皆、受験の年で今までにない忙しい夏になるだろうけど、たまには連絡取って集まろうー!」

そう言って、深月は帰って行った。

私も、忙しい夏になる。

学園が受験生の為にと、自習室を開放してくれている。

そこで必死に小論文の対策をしていると、新澤先生に話しかけられたりもした。

皆の推薦状を書くのが大変だが楽しいだとか、他の皆の様子等をたまに教えてくれる。

椎菜が塾にカンヅメになりがちで、麗眞くんが気が気でないようだ。

自習をしに来た深月や美冬、小野寺くんや秋山くんと、バッタリ会ったときもあった。

そんなときは、食堂や学園近くのカフェでお茶をして帰ることもあった。

時には帰りに深月や美冬の家に泊まらせてもらうこともあった。

その時は受験勉強でそれぞれの彼氏とデートの頻度が減り、寂しいなどと愚痴をこぼしていた。

美冬は、小野寺くんと、大会を頑張ったご褒美に、某有名テーマパークに行ったらしい。

テーマパークに隣接しているホテルは高校生には手が出ない値段のはずだったが、既に予約の時点で半額払われていたという。

『大会も見に行けず、最近屋敷で集まる機会も作れなくて申し訳ない。

せめて2人の時間くらいは邪魔されずに楽しんでほしい』

との言付けがされていたそう。

それ、確実に麗眞くんだよね……

小野寺くんからは、頑張って同じ大学に合格して、大学近くのアパートで一緒に住みたいと言われたらしい。

同棲前提なのか……

一番早く結婚しそうなの、美冬と小野寺くんだな、こりゃ。