その道中は、ほとんど進路の話だった。

顔を合わせるとこんな話になる辺り、もう受験生になったのだと感じる。

「新澤先生、旦那さんがアナウンサーなんだって!

旦那さんの出身校、大学内のミスコンからアナウンサーへの門戸が開かれてるみたいなの!

いい情報、教えてくれたなぁ!

さすが新澤先生!

美冬はウキウキだった。

すっかり、着任してきた新澤先生がお気に入りのようだ。

彼女は、高校最後の放送部の甲子園と呼ばれる大会に出るための練習があるのだという。

そのため、しばらくこのような形での集まりの輪からは外れるということだった。

「何せ、美冬はその大会の司会も兼ねてるからな。

人の5倍は練習に時間を費やしてる。

タフなやつだよ、美冬は」

「そういう小野寺くんだって。

私の父にいろいろ教わってるんでしょ。

隣のお姫様を守りたい一心からだとは思うけど。

それに、麻紀さんと真さんの料理教室で、料理の腕まで磨いてるそうじゃない。

しかも、秋山くんと一緒にね。

将来的に、同棲したいから、だったりして」

え、そうだったの?

その事実を知らなかったのだろうか。

琥珀から聞いた台詞に、深月と美冬はそれぞれ、互いのパートナーの顔をキョトンとした面持ちで見つめていた。

「しっかし、意外だねぇ。

ちょっと言い方失礼かもだけど、すんなり椎菜が麗眞くんのカナダ行き、受け入れたの。

私、ちょっと一悶着あるかと予想してたのに」

「その台詞、新澤先生にも言われたよ。

麗眞のお父さんの同級生の人みたいだから、悪く言うつもりはないけど。

寂しくはなるけど、理由が理由だし。

宝月の家を正統に継ぐのは、長男である麗眞になるからね。

その為に、私の想像以上にたくさん学ばなきゃだし、だったり経験も積まなきゃいけない。

ワガママ言って、その邪魔をする権利は、私にはまだないからね。

正式な婚約者じゃないし。

それに。
そのうち、生きてれば嫌でも一生の別れは来るし。

今から寂しいなんて言ってちゃ、一人じゃ生きていけなくなっちゃうからね。

私と麗眞の絆の強さ、つい最近着任してきた教師に分かってたまるか、って感じよ。

大学入って初めての長い夏休みの目標を今からくれたことに、感謝しなきゃね!

バイトしてお金貯めて、麗眞のいるカナダに行く、って決めたんだ!

ただ、いつでもイチャついてるカップルに見えるんでしょうけど。

麗眞は、私をもっと頑張らなきゃ、って気持ちにさせてくれる、大事な人でもあるんだから。

だから一緒にいるのよ。


あ、唐突な自分語り、なんかごめん……

さっき話したことを要約して新澤先生に伝えたら、彼女、無言でニッコリと微笑んでね。

その横顔が何だか晴れやかで。

何か、新澤先生への苦手意識もどこかに飛んでいったわ」

「おそらく、椎菜のおふくろさん、菜々美さんそっくりだなぁ、とでも思ったんだろ。

誰にでも優しくて、人を不快にさせない物言いもできる。

それでいて、八方美人なわけでもない。

一本、ちゃんと芯が通っている。

そこが、おふくろさんそっくりだから、何だか安心したんじゃね?

俺たちなら何も心配することはない、ってな」

何だか、私だけ会話の蚊帳の外だなぁ。

そんなことを考えていると、相沢さんが宝月の屋敷に着いたことを教えてくれた。

「何か、ご不安でもお有りですか?

顔が暗いですよ、理名様」

車から降りたあと、相沢さんにそう尋ねられた。

「今日みたいに、会うと進路の話ばかりになってきて。

大学はそれぞれバラバラだし、このまま皆と疎遠になっちゃいそうで、少し不安なだけです」

「理名様。

悪い方向に考えすぎです。

理名様の悪い癖ですよ。

高校時代の友人は、一生の大切な友人になるとよく聞きます。

大学は離れても、疎遠にならないことは、麗眞坊ちゃまや椎菜様、琥珀や深月様のご両親が証明しているのでは?

椎菜様や、生憎今日はいませんが。

華恋様あたりは、大学を離れても、貴女様が立派に呼吸器内科医になられても、皆様を心配して連絡を下さるかと。

そして、深月様は、何日間か休暇を取らせて観光地のホテルで盛大な同窓会を企画しそうな気がします」

何だかその光景が容易に想像できて、思わず笑みがこぼれた。