登校して机の上に荷物を置くなり、あ、理事長に呼ばれてるんだった!

ちょっと行ってくる、と声を掛けて、華恋は小走りで教室を出て行った。

ホームルームのチャイムと共に教室に駆け込んだ彼女は、担任教室に驚かれていた。

「もう大丈夫ですので。

その節は、ご心配おかけしました。

葬儀もやっていないので、心を整理する時間に充てさせていただきました。

無理しているわけではないので、その辺りもご心配なく」

にっこりと微笑んだ華恋だが、いつもの彼女の笑顔とは、やはり違う。

口ではああ言ってはいるものの、無理しているんだな。

「美川、帰る家はあるのか?」

「ご心配なく、先生。

新年度に、私のような身寄りがなかったり、両親との関係が良好でないもののために学生寮を作っているそうですね。

現在、鋭意工事中だそうじゃないですか。

それが出来るまでのつなぎとして、理事長と、そのご子息の麗眞くんの家にお世話になって良い、とのことで許可を頂いていますので。

児相に保護されるのはまっぴらごめんですから」

何かそんなことになっているらしい。

まぁ、あの広い家なら、もっと人が増えても住めそうだ。

それにしても、寮が出来るなんて話は初耳だ。

父親との関係が良好でないままだったら、私も入寮したかったくらいだ。

今は、寮の規則決めを、たまに華恵さんに正瞭賢に来てもらって決めているところなのだという。

弁護士の仕事に育児に、だけではなくこの学園にまで関わっているのには驚きだ。

深月といい、何で私の周りには何足もわらじを履く人が多いんだろう……

担任からアナウンスがあったが、今日は琥珀がいないという。

何でも、将来の進路が決まるかもしれない、重要なコンクールがあるそうだ。

無事に、コンクールが終わるといいけれど。

今日の分の授業も終わって、ホームルームも終わり、部活に向かおうとしたとき、教室中のスマホが鳴り、地震が来た。

地震より、一斉に鳴るスマホの音のほうが恐ろしかった。

揺れ自体は大きくはなかったが、長く揺れる嫌な感じはしばらく続いた。

「何かまだ揺れてる感じする、何か変な感じ」

『コンクールは無事に終わったよ!

審査員の人が私が進学予定の大学の理事長さんだったんだよ!

その人から、直接ウチの大学にぜひ、って言っていただけたの!

地震、皆は大丈夫だった?

私のところも揺れたよ、慌てて避難するときにちょっと脚をひねっちゃったけど、それ以外は元気だから』

琥珀からはそんなメッセージがグループチャットに来た。

心配そうにしている巽くんを見かねてか、麗眞くんが彼の執事、相沢さんに連絡を取っていた。

頼み事は、巽くんを、琥珀のコンクール会場の最寄り駅まで車で送ることだろう。

巽くん、よっぽど琥珀が心配で仕方ないのね。

学園公認カップルみたいに、過保護になりそうだ。

それはそれで、琥珀が嫌がりそうだけれど。