昇降口を出ると、見慣れた車が停まっていた。
すぐに分かる長い車体のリムジンは、麗眞くんの家のものだ。
「どうぞ、皆様。
お疲れでしょうから、一度宝月邸にてご夕食はいかがでしょう」
相変わらず暑そうな執事服に身を包んだ相沢さんが、恭しくお辞儀をする。
琥珀は、リムジンに気が付かないフリをして帰ろうとしたが、それを椎菜と深月に止められた。
椎菜と深月の2人は、琥珀の耳元で、何かを言った。
彼女を引っ張ってリムジンに乗せた。
琥珀の顔は、茹でダコより真っ赤だった。
琥珀に何言ったの、あの2人……
宝月邸に向かう道中は、狙ったわけではないが物静かだった。
宝月邸の革張りのソファと高級なテーブルが並ぶ部屋には、先客がいた。
美冬に小野寺くん、巽くんに、御劔夫婦だった。
「あら、来たのね。
お疲れ様。
ごめんなさいね、私達まで。
驚かせてしまったかしら。
蓮太郎……
これじゃ通じないわね。
貴方達の学園の理事長と話があったの。
そのついでに、どうせなら皆様の橋渡しを、と思ってね」
どういうことだ。
状況が全然飲み込めない。
くるり、と踵を返そうとするのは、麗眞くんだ。
「コラ、麗眞!
どこ行くつもり?
都合が悪いことから目を背けてるようで、次期当主の器じゃないと思うけど。
……自分の気持ちに素直になったら?
私には話してくれたじゃない」
椎菜がピシャリと嗜める。
彼は優雅に紅茶を楽しみながら革張りのソファーに座る面々を、じっくりと見た。
「華恵さんと優作さん、それに俺と深月、椎菜と琥珀は昔グアム旅行に行ってる。
まだその時は小さかったから、記憶として鮮明に残ってはいないだろうが。
そこで、琥珀達の班が温水プールで遊び疲れて眠っている頃だった。
俺と姉さん、それに御劔夫妻の娘さんたちは、聞いてるんだ。
俺の親父と優作さんから、ちょうど今の俺らくらいの青春時代の話を、かなり長時間に渡って」
「懐かしいな、そういえば、そんなこともあったっけ」
「え、そうだったの?」
「だから俺は知ってた。
俺に魔力なんて力はないけれど、力の制御には苦労していたこと。
第二次性徴が始まって、生殖行為が出来るくらいの年齢から、徐々に魔力は失われていくこと。
魔力が失われる予兆は、ある道具があったからこそ、親父や御劔夫妻は知っていた。
だが、普通は知る術がないこと。
それを、何とかして伝えたいと思ったら、つい言い過ぎてた。
悪かったよ、本当に。
琥珀、それに美冬ちゃん。
皆の修学旅行の時間、こんなことで退屈な物にさせて、本当にすまなかったと思ってる。
今更謝ったところで、あの修学旅行の時間は帰ってこないけど……」
麗眞くんが人前で深々と頭を下げるのを、初めて見たような感じがした。
「私も、ずっと人と口利かないのも空気悪くしたから申し訳なかったと思ってる。
何となく、私も華恵さんと優作さんから話はしてもらったから、あの修学旅行の日よりは理解できたから。
それに、放送部ラジオドラマのネタももらっちゃったしね。
麗眞くんも、皆も、私こそごめんね」
「わたしもごめん。
頭の中がグチャグチャで、酷いこと言ってたのにも気付かなかった。
色んなことありすぎて、ちょっとワケ分かんなくなって。
脳内回路がショートしかけたみたいになってたの。
私こそごめん!」
「ホラ、仲直りが済んだなら、皆適当な場所に座ろ?
せっかく相沢さんが紅茶とかコーヒー持ってきてくれたのに、私達が邪魔してるからさ」
深月の声で、皆は一斉にリビングの入り口を見た。
相沢さんが深月に会釈して、私達の前にそれぞれカップやソーサーを置いた。
「皆様、仲直りは済んだようですね。
まずはお疲れでしょうから、紅茶でもいかがでしょう。
御劔様ご夫婦は後30分ほどでお暇されるとのことですよ。
この機会にいろいろお話を伺うのも一興かと。
それでは、ごゆっくり」
話は、華恵さんと彼女の旦那、優作さんの夫婦生活のことで持ちきりだった。
私も参考になることが多かった。
「何だか不思議な感じです。
夫婦なのに遠距離恋愛みたいな感じで。
それでも仲が良い、って。
俺は、多分心が折れて呆気なく椎菜は俺じゃなくて他の男のところにいたほうが、とか思っちゃいそうです。
そんな自分も、少し怖くて。
そういうところも、まだまだガキだな、って」
麗眞くんがポロリと溢した言葉に、一瞬だけ微笑んだ夫婦は、彼の目を真っ直ぐに見て言葉を紡いだ。
「大丈夫よ。
貴方と椎菜ちゃんなら。
仮にその理由でも、他のとんでもない理由だとしても。
一度離れても、長年結ばれた絆はそう簡単に切れないわ。
私たち夫婦も、だけど。
私たちの同級生の仲間だって、今もそれで繋がっていられるから。
現に、麗眞くんや椎菜ちゃん、深月ちゃんや琥珀ちゃんもよく知ってるから。
騙されたと思って、今の言葉を頭の片隅にでも置いておいてくれると嬉しいわ」
「そうだぞ。
離れていても気持ちが切れなかったからこそ、琥珀ちゃんも麗眞くんも、ここにいるんだからな。
まぁ、琥珀ちゃんの両親に聞いてみるといい。
あの2人は結構な期間日本と海外で離れて暮らしていたからな。
今も似たようなものだし。
何かあったら話くらいは私が華恵が聞けるから。
何かあったら遠慮なく相談するといい」
華恵さんと優作さんは、学園公認カップルの2人に、そうアドバイスを送っていた。
娘たちがそろそろ帰ってくる時間だから、ということで帰って行った。
すぐに分かる長い車体のリムジンは、麗眞くんの家のものだ。
「どうぞ、皆様。
お疲れでしょうから、一度宝月邸にてご夕食はいかがでしょう」
相変わらず暑そうな執事服に身を包んだ相沢さんが、恭しくお辞儀をする。
琥珀は、リムジンに気が付かないフリをして帰ろうとしたが、それを椎菜と深月に止められた。
椎菜と深月の2人は、琥珀の耳元で、何かを言った。
彼女を引っ張ってリムジンに乗せた。
琥珀の顔は、茹でダコより真っ赤だった。
琥珀に何言ったの、あの2人……
宝月邸に向かう道中は、狙ったわけではないが物静かだった。
宝月邸の革張りのソファと高級なテーブルが並ぶ部屋には、先客がいた。
美冬に小野寺くん、巽くんに、御劔夫婦だった。
「あら、来たのね。
お疲れ様。
ごめんなさいね、私達まで。
驚かせてしまったかしら。
蓮太郎……
これじゃ通じないわね。
貴方達の学園の理事長と話があったの。
そのついでに、どうせなら皆様の橋渡しを、と思ってね」
どういうことだ。
状況が全然飲み込めない。
くるり、と踵を返そうとするのは、麗眞くんだ。
「コラ、麗眞!
どこ行くつもり?
都合が悪いことから目を背けてるようで、次期当主の器じゃないと思うけど。
……自分の気持ちに素直になったら?
私には話してくれたじゃない」
椎菜がピシャリと嗜める。
彼は優雅に紅茶を楽しみながら革張りのソファーに座る面々を、じっくりと見た。
「華恵さんと優作さん、それに俺と深月、椎菜と琥珀は昔グアム旅行に行ってる。
まだその時は小さかったから、記憶として鮮明に残ってはいないだろうが。
そこで、琥珀達の班が温水プールで遊び疲れて眠っている頃だった。
俺と姉さん、それに御劔夫妻の娘さんたちは、聞いてるんだ。
俺の親父と優作さんから、ちょうど今の俺らくらいの青春時代の話を、かなり長時間に渡って」
「懐かしいな、そういえば、そんなこともあったっけ」
「え、そうだったの?」
「だから俺は知ってた。
俺に魔力なんて力はないけれど、力の制御には苦労していたこと。
第二次性徴が始まって、生殖行為が出来るくらいの年齢から、徐々に魔力は失われていくこと。
魔力が失われる予兆は、ある道具があったからこそ、親父や御劔夫妻は知っていた。
だが、普通は知る術がないこと。
それを、何とかして伝えたいと思ったら、つい言い過ぎてた。
悪かったよ、本当に。
琥珀、それに美冬ちゃん。
皆の修学旅行の時間、こんなことで退屈な物にさせて、本当にすまなかったと思ってる。
今更謝ったところで、あの修学旅行の時間は帰ってこないけど……」
麗眞くんが人前で深々と頭を下げるのを、初めて見たような感じがした。
「私も、ずっと人と口利かないのも空気悪くしたから申し訳なかったと思ってる。
何となく、私も華恵さんと優作さんから話はしてもらったから、あの修学旅行の日よりは理解できたから。
それに、放送部ラジオドラマのネタももらっちゃったしね。
麗眞くんも、皆も、私こそごめんね」
「わたしもごめん。
頭の中がグチャグチャで、酷いこと言ってたのにも気付かなかった。
色んなことありすぎて、ちょっとワケ分かんなくなって。
脳内回路がショートしかけたみたいになってたの。
私こそごめん!」
「ホラ、仲直りが済んだなら、皆適当な場所に座ろ?
せっかく相沢さんが紅茶とかコーヒー持ってきてくれたのに、私達が邪魔してるからさ」
深月の声で、皆は一斉にリビングの入り口を見た。
相沢さんが深月に会釈して、私達の前にそれぞれカップやソーサーを置いた。
「皆様、仲直りは済んだようですね。
まずはお疲れでしょうから、紅茶でもいかがでしょう。
御劔様ご夫婦は後30分ほどでお暇されるとのことですよ。
この機会にいろいろお話を伺うのも一興かと。
それでは、ごゆっくり」
話は、華恵さんと彼女の旦那、優作さんの夫婦生活のことで持ちきりだった。
私も参考になることが多かった。
「何だか不思議な感じです。
夫婦なのに遠距離恋愛みたいな感じで。
それでも仲が良い、って。
俺は、多分心が折れて呆気なく椎菜は俺じゃなくて他の男のところにいたほうが、とか思っちゃいそうです。
そんな自分も、少し怖くて。
そういうところも、まだまだガキだな、って」
麗眞くんがポロリと溢した言葉に、一瞬だけ微笑んだ夫婦は、彼の目を真っ直ぐに見て言葉を紡いだ。
「大丈夫よ。
貴方と椎菜ちゃんなら。
仮にその理由でも、他のとんでもない理由だとしても。
一度離れても、長年結ばれた絆はそう簡単に切れないわ。
私たち夫婦も、だけど。
私たちの同級生の仲間だって、今もそれで繋がっていられるから。
現に、麗眞くんや椎菜ちゃん、深月ちゃんや琥珀ちゃんもよく知ってるから。
騙されたと思って、今の言葉を頭の片隅にでも置いておいてくれると嬉しいわ」
「そうだぞ。
離れていても気持ちが切れなかったからこそ、琥珀ちゃんも麗眞くんも、ここにいるんだからな。
まぁ、琥珀ちゃんの両親に聞いてみるといい。
あの2人は結構な期間日本と海外で離れて暮らしていたからな。
今も似たようなものだし。
何かあったら話くらいは私が華恵が聞けるから。
何かあったら遠慮なく相談するといい」
華恵さんと優作さんは、学園公認カップルの2人に、そうアドバイスを送っていた。
娘たちがそろそろ帰ってくる時間だから、ということで帰って行った。