劇は1日2回公演だ。

どうしても観たい、という人がいた場合は、劇を録画した映像を流すことになっている。

午前と午後の、合間の休憩時間。

華恋と椎菜、深月と美冬。

恋バナには目がない4人は、友映ちゃんの隣の男の子と彼女について、矢継ぎ早に質問していた。

綺麗な茶髪の男の子。

バレー部だからだろうか、チェックシャツに覆われた腕には程よく筋肉がついている。

私たちと同級生にしては、少し童顔だ。

「初めまして。
相原 真紀(あいはら まさき)です。

優弥から聞いてます。

皆様は校内でレジェンドと呼ばれる存在だと。

そんな方々でも、友映への質問責めは許しませんよ?

友映は俺の彼女ですから」

「やっぱ、お父さんの血を引きすぎたね、真紀くんは。

お父さんそっくり」

「あなたのお父さん、お母さんとカップルになった後、割とすぐに手出そうとしたみたいだし」

矢継ぎ早に質問をしている彼女たちを止めようと、輪に入ったために、華恋たちにゴニョゴニョ言っていた友映ちゃんの声が、聞こえてしまった。

「キスは、もうしました。
……しかも、割と深いやつを」

「えー!!」

私を含めた、女子たちの高い声が教室中に響いた。

「ったく、午後公演のために腹ごしらえ行く、って言ったの誰だよ。

椎菜、ホラ行くぜ」

「深月も。
早くしないとお好み焼きもクレープも売り切れるぞ」

「美冬もさ、ナレーション役で疲れたろ。

一息入れに行こうか。

午後公演終えた後すぐ、公開収録だし。

何かお腹に入れておかないと。

公開収録中に腹の虫鳴らすわけにいかないでしょ」

皆がそれぞれのカップルたちで各々ご飯を食べに行く中、私は取り残されてしまった。

「もう、成司さんったら!

迎えに来てくれたのは嬉しいですけど、先に行かないでくれます?

迷ってたら、劇見そびれたじゃないですか」

そこに、懐かしい声が響いて、外に出ようとした各々のカップルも、思わず振り返った。

通信制高校に編入した、碧だった。

「碧!
久しぶりー!

元気そうで良かった!

もう、来るなら来る、って言ってよね!」

華恋と美冬、琥珀ににバンバンと肩を叩かれている碧。

「発作が出る回数も、本当に少しずつだけど減ってきてるの。

環境変えた当初は、発作ひどくて入院してたくらいなんだけどね。

凜先生、本当にいい先生で良かった」

碧にそう言われると、私が言われているわけでもないのに照れる。

「元気そうで良かった。

あと10年後くらいかな?

碧の主治医にさせてね」

それだけ言うと、碧は照れたように俯いてから、もちろん、と微笑んだ。

「せっかくだから、華恋も理名も、一緒に回ろ?

琥珀は、巽くんを引っ張って今川焼きのお店行っちゃったし」

「でも、成司くんはいいの?
一緒に回らなくて」

「私が、午後の部の劇を見たあと、改めて一緒に回るの。

文化祭が終わったら、成司さんとは美味しい紅茶専門店でデートする約束になってるから」

「恋人なのに、さん付けなの?」

「まだ慣れなくて……」

「あのねぇ、碧。
ここぞってときに名前呼び捨てされると男は弱いのよ」

「そうそう。
私とミッチーも、時々不意打ちで名前呼び捨てにするのよ。

スイッチ入るみたいで、その後は激しくされるけど」

さり気なく惚気けるなぁ、深月。

「久しぶりに会えて嬉しい!

劇も文化祭も、楽しんでね?」

「うん、久しぶりの正瞭賢、思い切り楽しんでな!

何なら、担任のところに顔出してやると喜ぶかも」

麗眞くんと椎菜は、そう言ってしっかり恋人つなぎをしながら教室から出て行った。

うう、見せつけてくるなぁ。

さすが学園公認カップル。