深月と秋山くんが戻ってこないのを気にしながら、アンケートを記入した。

確かにスマホで打ち込むのは便利だ。

回答を誰にも見られないから、本音を書ける。

記入を終えた頃、麗眞くんのスマホに着信があった。

そっと教室の外に出て、彼は電話に応答していた。

深月の名前や、華恵さん、相沢さんの名前まで出ていた。

何があったかは、会話から推測できなかった。

通話を切った後、たまたま教室に来た担任教師に、麗眞くんが話していたのが聞こえた。

「浅川さんが急に体調を崩したようで、早退するとのことです。

1人にさせるのは不安なので、秋山さんも付き添いをするそうです」

深月、そうだったの?

そういえば、今日の朝からいつもより食欲がなく、朝食をほんの少し手つかずのまま残していたような気がした。

いつもは私と同じタイミングで、残さず完食するのに。

「おお、そうか……

何もないといいんだがな。

浅川は今度の劇の要だ」

「少し深月の負担を減らせないかな……

生徒会長が増えることになると、わらじ何足目になるんだろう、って心配よ」

「美冬と似てるんだな、そこは。

しんどい、とか辛いってのを吐き出すべきじゃない、とか吐き出したら負け、って思ってるところがあるんだろ。

心理学に長けた彼女なら尚更な。

それはいいところでもあるんだが、悪いところもある」

「それに気付かず、周りが押し付けるのも問題ね。

まだやれるはずだ、ってね。

本人でさえもキャパをとっくに超えていることに気付けなくなっていく。

どこかで一度、気を抜く時間を作らないとね。

深月のことだから、学校や部活で疲弊しててもなお、自分の母親の研究の手伝いとかしてるんでしょうし」

美冬や椎菜、小野寺くんの的確な深月への評価が返ってくる。

盜音機、という名前だったっけ、の機械の電源が入っていたら、これが録音されるから、深月は喜ぶだろうか。

私も、気が付いたことを言ってみる。

「周りを心配させまいと周囲に気を遣いすぎるのは深月の十八番だからね。

私みたいな口下手は、それに助けられているんだけれど。

今思えば、深月の口から愚痴、って聞いたことないのよね」

「深月ちゃんが周りに気は遣っているものの、実は疲弊しきってボロボロ。

それを、華恵さんは見抜いてたんだろうな。

道明が珍しくしょげてたよ」

「なるほどな。

一度、浅川の親御さんと面談を入れてみるか」

そう、一言口を挟んだ担任のスーツの胸ポケットの中で、赤い光が点滅を終えたところだった。

あ、もしかして。

今の、担任教師が録音してたの?

「浅川に後で聞かせようと思ってな。

何なら、浅川の親御さんを呼んだ時にでも。

その方が、彼女も本音を話しやすいだろう。

試験明けのタイミングで三者面談をちょうど考えていたからな。

いいタイミングだ」

三者面談、という言葉に私と、華恋の血の気が
引いた。

その時、またしても麗眞くんのスマホに着信があった。

その場で出ると、相手は相沢さんのようだった。

「凛先生のところなら、理名ちゃんに聞けばいいな。

うん、了解した。

え、もしかして、付き添ってもらってる?

何か悪いなぁ。

華恵さん、夜は久しぶりに会う旦那と、たまにはとねだる子供たちと4人で過ごすそうだ。

ちょっと豪華なディナーだ、って言ってたのに。

とにかく、様子は逐一教えてくれ。

ありがとう、相沢」

通話を切った彼は、過労で高熱を出した深月が心配で、病院で診てもらっていること。

華恵さんにも念のためまだ付き添って貰っていることを告げた。

秋山くんは言わずもがな、と付け足した。

アンケートへの回答を終えたものから、帰宅していいことになっている。

私たちも、何とはなしに麗眞くんの豪華な別荘に集まった。

お菓子を片手に、いろいろ世間話をして気を紛らわせていた。

そうでもしないと、深月と秋山くんは大丈夫だろうか、ばかりが脳内を駆け巡ったのだ。