リビングに通されると、相変わらず無粋な表情をしている桜木くんに話しかけた。
「何よ。
さっきから不機嫌そうな顔して。
そんなんじゃ、誰もグループ組みたがらなかったのも納得ね」
「んー?
俺はここの執事たちの教育係として雇われてる、親父と鉢合わせしたくないだけ。
素直に理名ちゃんと同じグループになれたのは嬉しいよ?」
え、え?
桜木くんのお父さん、ってそうだったの?
「そうだよ。
俺が中学生だった頃に俺のお袋が亡くなった。
それ以来、人に仕えることはしなくなった。
執事としての長年のキャリアが勿体ないから、皆の教育係にしてる、ってわけ。
なぁ、相沢」
「はい。
宝月家に仕える執事は皆、桜木様のお父様、圭太様の厳しい教育を受けております。
その知識の豊富さは眼を見張るものがあります」
「ったく、お袋亡くしてから目に見えるくらい仕事にやる気なくしちゃってさ。
給料はいい方だけど、支えるために俺も家庭教師のバイトしてるし。
体弱いのに、無理してたから分からなくはないけど。
そんなお袋の境遇に被る人がいれば、あるいは誰かに仕える気になるのかもな」
そう言った桜木くんは、チラリと椎菜を見て、すぐに戻した。
「宝月、マジで矢榛のボディーガード気取りかよ……
おっかねえな」
「うん、溺愛しすぎにも程があるよね……
いつか孕ませられるよ、っていつも深月とかに言われてる」
「理名ちゃん、君にもボディーガードがいるのかな?
その指輪を見る限り」
私の薬指に目をやると、桜木くんは何の気なしに、というふうで私に問いかけた。
「ええ。いるわよ。
とっても頼れる人が。
今はドイツにいるけど」
「その彼氏に修学旅行でバージン奪われる気満々だもんね!
夜はその話題で持ちきりね、きっと」
華恋がすかさず間に入ってくる。
昨日今日話すようになった人じゃ太刀打ちできないよ、と牽制してくれているようだった。
このまま桜木くんと話しているのは苦痛だった。
華恋には救われた。
今度お礼しなきゃな。
「ホラ、夕飯までまだかかるみたいだから、先に風呂入れ?
レディーファーストだ、女性陣からどうぞ」
「ありがと、行ってくるね、麗眞」
軽く麗眞くんと唇を重ねる。
椎菜はいつかのように私たちの先頭に立って、来客用の浴室まで案内してくれた。
各々服を脱いで身体と頭を清め終わると、広い浴槽に浸かった。
「それにしても。
思わず割って入っちゃったわよ!
何なの、桜木くんの理名への態度!
理名は自分が奪えるとでも思ってるのかね!
理名には拓実くんがいるのに!」
「ほんとほんと。
理名には自分がピッタリだと言わんばかりの態度、腹立つわ!
修学旅行で拓実くんと、私と賢人くらいイチャついちゃえ!
しかも桜木くんの目の前で!」
「ちょっと矛先間違ったらモラハラ男になりそうな気もする。
ああいうタイプ、理名には合わないよ。
もっと自分に依存してくれる、女の子らしい子の方がいいのよね。
ああいうタイプは」
深月が何か言っている。
「とにかく、これ以上言い寄るようなら拓実くんに言った方がいいよ。
してるんでしょ?ビデオ通話」
椎菜が的確な意見を言ってくれたが、最近また出来ていない、とは言いづらかった。
「とにかく、私たちもミッチーとかに牽制してもらうよう言ってみる。
まぁ、勘がいいからね、ミッチー含めた賢人くんとか麗眞くんは。
もうやってくれてる可能性も無きにしもあらずだけど」
「さすが生徒会長に立候補するだけのことはあるね、深月!」
「公約で『全校生徒にアンケートを取る。
その結果を元に必要だと感じた人には適宜カウンセリングを受けられるようにする』を掲げる辺りは、やっぱり深月だよね!」
深月は照れくさそうに顔を伏せながら、首を振っている。
「もう!
せっかく学校の外なのに、その話題はやめてよねー!」
生徒会の仕事を手伝っていたことで、もうすっかり上級生とも馴染み、猛プッシュされて立候補したのだ。
秋山くんも書記になったことで、荷物を持つのを手伝ってもらったりしているそうだ。
「溺愛されてるねぇ、深月」
そう言ったのは美冬だ。
彼女の視線は、深月のCは確実にあるだろう膨らみの間に向けられている。
そこには、複数個もの紅いシルシが残されていた。
ポン、と椎菜が彼女の頭に手を置く。
「深月、そこだけならまだマシだよ……」
その口振りは、椎菜が身体のあらゆる箇所にシルシを残されていることを意味する。
チラ、と脱衣場で服を脱ぐ前の彼女の白い肌を見やった。
確かに首筋や胸元だけではなく、背中や太腿にも薄くシルシがつけられていた。
「未来の旦那につけられたの?」
深月の言葉にゆっくりと首を縦に振った椎菜は使い終えたヘアアイロンを美冬に渡した。
彼女はチラ、と私が目が合うと、力なく微笑んで脱衣場から出ていった。
「何よ。
さっきから不機嫌そうな顔して。
そんなんじゃ、誰もグループ組みたがらなかったのも納得ね」
「んー?
俺はここの執事たちの教育係として雇われてる、親父と鉢合わせしたくないだけ。
素直に理名ちゃんと同じグループになれたのは嬉しいよ?」
え、え?
桜木くんのお父さん、ってそうだったの?
「そうだよ。
俺が中学生だった頃に俺のお袋が亡くなった。
それ以来、人に仕えることはしなくなった。
執事としての長年のキャリアが勿体ないから、皆の教育係にしてる、ってわけ。
なぁ、相沢」
「はい。
宝月家に仕える執事は皆、桜木様のお父様、圭太様の厳しい教育を受けております。
その知識の豊富さは眼を見張るものがあります」
「ったく、お袋亡くしてから目に見えるくらい仕事にやる気なくしちゃってさ。
給料はいい方だけど、支えるために俺も家庭教師のバイトしてるし。
体弱いのに、無理してたから分からなくはないけど。
そんなお袋の境遇に被る人がいれば、あるいは誰かに仕える気になるのかもな」
そう言った桜木くんは、チラリと椎菜を見て、すぐに戻した。
「宝月、マジで矢榛のボディーガード気取りかよ……
おっかねえな」
「うん、溺愛しすぎにも程があるよね……
いつか孕ませられるよ、っていつも深月とかに言われてる」
「理名ちゃん、君にもボディーガードがいるのかな?
その指輪を見る限り」
私の薬指に目をやると、桜木くんは何の気なしに、というふうで私に問いかけた。
「ええ。いるわよ。
とっても頼れる人が。
今はドイツにいるけど」
「その彼氏に修学旅行でバージン奪われる気満々だもんね!
夜はその話題で持ちきりね、きっと」
華恋がすかさず間に入ってくる。
昨日今日話すようになった人じゃ太刀打ちできないよ、と牽制してくれているようだった。
このまま桜木くんと話しているのは苦痛だった。
華恋には救われた。
今度お礼しなきゃな。
「ホラ、夕飯までまだかかるみたいだから、先に風呂入れ?
レディーファーストだ、女性陣からどうぞ」
「ありがと、行ってくるね、麗眞」
軽く麗眞くんと唇を重ねる。
椎菜はいつかのように私たちの先頭に立って、来客用の浴室まで案内してくれた。
各々服を脱いで身体と頭を清め終わると、広い浴槽に浸かった。
「それにしても。
思わず割って入っちゃったわよ!
何なの、桜木くんの理名への態度!
理名は自分が奪えるとでも思ってるのかね!
理名には拓実くんがいるのに!」
「ほんとほんと。
理名には自分がピッタリだと言わんばかりの態度、腹立つわ!
修学旅行で拓実くんと、私と賢人くらいイチャついちゃえ!
しかも桜木くんの目の前で!」
「ちょっと矛先間違ったらモラハラ男になりそうな気もする。
ああいうタイプ、理名には合わないよ。
もっと自分に依存してくれる、女の子らしい子の方がいいのよね。
ああいうタイプは」
深月が何か言っている。
「とにかく、これ以上言い寄るようなら拓実くんに言った方がいいよ。
してるんでしょ?ビデオ通話」
椎菜が的確な意見を言ってくれたが、最近また出来ていない、とは言いづらかった。
「とにかく、私たちもミッチーとかに牽制してもらうよう言ってみる。
まぁ、勘がいいからね、ミッチー含めた賢人くんとか麗眞くんは。
もうやってくれてる可能性も無きにしもあらずだけど」
「さすが生徒会長に立候補するだけのことはあるね、深月!」
「公約で『全校生徒にアンケートを取る。
その結果を元に必要だと感じた人には適宜カウンセリングを受けられるようにする』を掲げる辺りは、やっぱり深月だよね!」
深月は照れくさそうに顔を伏せながら、首を振っている。
「もう!
せっかく学校の外なのに、その話題はやめてよねー!」
生徒会の仕事を手伝っていたことで、もうすっかり上級生とも馴染み、猛プッシュされて立候補したのだ。
秋山くんも書記になったことで、荷物を持つのを手伝ってもらったりしているそうだ。
「溺愛されてるねぇ、深月」
そう言ったのは美冬だ。
彼女の視線は、深月のCは確実にあるだろう膨らみの間に向けられている。
そこには、複数個もの紅いシルシが残されていた。
ポン、と椎菜が彼女の頭に手を置く。
「深月、そこだけならまだマシだよ……」
その口振りは、椎菜が身体のあらゆる箇所にシルシを残されていることを意味する。
チラ、と脱衣場で服を脱ぐ前の彼女の白い肌を見やった。
確かに首筋や胸元だけではなく、背中や太腿にも薄くシルシがつけられていた。
「未来の旦那につけられたの?」
深月の言葉にゆっくりと首を縦に振った椎菜は使い終えたヘアアイロンを美冬に渡した。
彼女はチラ、と私が目が合うと、力なく微笑んで脱衣場から出ていった。



