音楽の授業は怠かった。

ドイツに行くのだから、ドイツ語の曲を、ということで年末によく聞く第九を歌ったのだ。

それが終わると、食堂で皆で昼食をとった。

新学期特別編、として、美冬のラジオは長い尺を取っていた。

お悩み相談室では、捻挫をしてもピアノを弾いている気になる女がいる。

『好きになった女だからこそ、無茶をしないか傍で見守りたい。

返事は修学旅行の時でいい』と言ってしまったというハガキが読まれていた。

これ、絶対巽くんだな。

これが読まれたとき、私以外の女子陣はキャー、と机を叩きながら悶えていた。

「やるねぇ、巽くん。

優梨ちゃんに言ってやろ。

ついにお兄ちゃんもアオハル出来るね、
義理の妹として琥珀をよろしくね、って」

「おい、深月。

もう結婚前提かよ」

秋山くんが呆れたようにツッコむ。

「修学旅行で告白の返事、っていうのもいいよね。

やっぱり学校行事はね、ラブがあってこそ燃えるのよね。

深月、椎菜、麗眞くんの親世代もそんな感じだったみたい。

この前料理を振る舞ってくれた麻紀さんと真さんから聞いたよ?

麗眞くんの父親の幼なじみなんて、ずっと恋人に近い幼なじみ関係だったみたい!

学校行事でようやく告白したらしいよ」

え、そうなの?

「その人の話、親父からたまに聞く。

今は年の離れた娘2人を育てながら、敏腕弁護士と敏腕検察官やってる夫婦だってな。

長女が中学2年生、下の子が小学2年生らしい」

「うわ、6学年差かぁ、大分離れたね」

「まぁ、仕事で忙しかったみたいだからね。片や敏腕弁護士、片や検察官で異動もありじゃあね。

なかなか夜の時間も作れなかっただろうし」

麗眞くん、椎菜と深月が口々に話し出す。

どんな人なんだろう。

まさか、その人に文化祭前に会えるなんて、この時は思いもしていなかった。

お昼を終えると、修学旅行のグループを決める時間になった。

このグループで、1日目は回るのだという。
2日目は自由行動だ。

「琥珀と巽くんが心配だし気になるから、私と美冬は琥珀と巽くんと同じグループになるね!」

華恋と美冬は小野寺くんを加えて、琥珀と巽くんと一緒になった。

「深月と秋山くんと麗眞と理名。

それに私も入れて5人だね。

あと1人誰か居ればいいんだけど……」

チラチラとこちらをうかがっている、縁無しメガネをかけた、暗めの茶髪の男の子と目が合った。

彼は、私と目が合うと、トコトコとこちらに歩いて来た。

「理名ちゃんだよね?
よろしく。

昔、高1だったときに君を助けたことがあるんだけど、覚えてないか。

桜木 圭吾(さくらぎ けいご)です。
よろしく」

「桜木……。

そういうことか。

お父さんによろしく。

知ってると思うけど、宝月 麗眞。
よろしく」

さり気なく椎菜の華奢な肩を抱きながら自己紹介するところは、彼らしい。

第2ボタンまで空いている椎菜のブラウスがはだけて、紅いシルシがチラリと見えた。

昨夜も変わらず、2人でよろしくやっていたみたいだ。

麗眞くんの口ぶりからすると、宝月の家と桜木くんは関係があるのだろうか。

「秋山くん、だっけ。

桜木です。よろしく」

「秋山 道明だ。

あ、隣にいる深月は俺の女だから、言い寄るなよ?」

秋山くんも相変わらずだ。

「桜木くん?
深月です!

よろしくね!

修学旅行、楽しもうね!」

桜木くんの耳元で何か言った深月は、秋山くんに軽く小突かれていた。

グループ決めが終わると、今日はそのまま帰りのホームルームとなった。

「学年主任も言っていたが、今学期は行事が目白押しだ。

試験の範囲も広くなる。

体調には注意して、大いに励めよ!」

担任の言葉を聞き流して、皆で相沢さんの運転する車で麗眞くんの屋敷に向かった。

行くのかと不満そうな桜木くんも、メンバーに加えている。