「ん……」

1つ寝返りをうって目を開ける。

心配そうに美冬と友映ちゃんが私の顔を覗き込んでいた。

「理名、大丈夫?」

「大丈夫ですか?
岩崎先輩。

先輩、休憩室で資料を大事そうに抱えたまま眠っていらしたんですよ?

私の兄が、ここまで運びました。

あ、部屋着に着替えさせたのは、私と関口先輩ですからね!

そこはご心配なく!」

ふと下に目線を移した。

アイスの柄のTシャツに、黒いサテンシャツ。

黒いサテンロングパンツを着ていた。

あれ、こんなの、持ってきたっけ……

「理名のカバンに入ってたやつを引っ張り出しちゃった。

いいね、コレ。

私もやろうかなぁ、香澄(かすみ)さんがやってるルームウェアのサブスク。

ちょっとセクシーなの着て、賢人を欲情させたいなぁ」

その言葉で思い出した。

あの、碧のお別れ会の帰り際のことだ。

良かったら、香澄さんからルームウェアサブスクの案内パンフレットを渡された。

可愛い部屋着で拓実とビデオ通話をしたい、と思った。

帰宅して速攻申し込んだのだった。

「これ着てビデオ通話して、拓実くんに可愛いって思ってもらいたい、ってか?

相当惚れてんね。

理名の女子力爆上がり中、って感じだね!

その資料の中身も彼絡みなんでしょ?

修学旅行でドイツ行くんだから、思い切り甘えて来な!

何ならそのままロストしちゃえ!

本当に痛いから、覚悟してね?」

何か言っている美冬を、慌てて友映ちゃんが止めた。

「関口先輩!

岩崎先輩、困ってるじゃないですか!

朝になったら小野寺先輩に呼ばれてるんじゃないんですか?」

「あ、そういえばそうだった!

行ってきます!」

まったく、どうせイチャイチャするんだろう。

「理名様、それに友映様。

起きていらっしゃいますか?

皆様、食堂に集合しておりますよ?

ちなみに、美冬様と賢人様は、彩様の使用人がついでにお送りしました。

本日は始業式後から授業と、修学旅行のグループ決めなのですよね?

授業、と言っても音楽の授業のみだそうですがね。

お昼は久しぶりのラジオ放送だということで、美冬様たちは準備に余念がない様子でございました」

美冬、無理しないといいけど。

「食堂、どこでしたっけ?
迷いそうで……」

「私が知ってる。
行こう」

広い豪邸だからな、そりゃ不安にもなる。

私が来たときもそうだったから。

「うわ、広い……
お世話になっていいの?
こんなところ」

そんな不安がるな、というような表情をして、友映ちゃんの肩を叩いていた。

彼の兄の成司くんのお出ましだ。

「いいんだよ。

とにかく、楽しめ。

急ぎの奴、美冬ちゃんと賢人以外はいないか?
いたら俺が送ってやる。

今日はちゃんと講義あるからな」

深月と秋山くんが、名乗りを上げた。

「少し、ついでに大学生活のことをもう少し聞きたくて。

いいですか?

そろそろ、いい加減、ちゃんと進路のこと考えなきゃな、って」

「そういえば、抜き打ちテストのあと面談だったなぁ」

「お兄ちゃん、いつまでも話してないで、そこ通してよ!

私と岩崎先輩、遅刻しちゃうでしょ!」

悪い、と言って道を空けた成司くん。

妹には頭が上がらないタイプだな、と思う。

バイキング形式の料理の中から、和食を器に盛っていく。

「岩崎先輩、健康的でいいですね!

私なんて、手軽だし味濃いし、つい洋食を選んじゃって。

こんなんじゃ、太りますよね!

岩崎先輩は、背も高いしスタイル良くて、羨ましいです。

身長分けてほしいくらいですよ!

私も身長伸ばさないと、ピアノのペダルに足が

届かなくて。

琥珀さんも見習いたいです」

いやいや、成長期なのだから、たくさん食べたほうがいいだろうに。

人懐っこい後輩もいいな。

そう思いながら、和食を2皿平らげる。

麗眞くんや椎菜、友映ちゃんと共に、学校に向かった。