校歌斉唱も終わって、私たちの学年だけ残るように言われる。

何やら教師と話し込んでいた、先程ピアノを弾いていた子と目が合った。

その子は私の近くにいた麗眞くんと椎菜、深月を見て少し微笑む。

その刹那、こちらに走ってきた。

走るたびに、彼女のベストのポケットからスマホのキーホルダーがジャラジャラと音を立てていた。

「初めまして、ですかね?

美冬先輩と賢人先輩からお話は聞いてます。

私の両親と私の兄の知り合いだとか」

「おお、友映ちゃんか。

両親元気?

この間、その美冬ちゃんと賢人が友映ちゃんの父親にお世話になったみたいで。

ありがとうね。

お母さんは相変わらず?

今は大きな美容室のオーナーだっけ」

「はい!
父も喜んでました!

自分と同学年だった人の息子の友人と関わる機会を持てて良かった、って。

琥珀さんなんて、兄の成司と同じバイト先ですし。

兄は兄で琥珀さんの父の奈斗さんからいろいろ武術教わってるみたいですし」

あれ、成司、って人は、確か、碧が片想いしてる人だよね?

その人を兄って呼んでる、ってことは、今目の前にいるツインテールが似合う初々しい制服姿の子。

この子って、もしかしなくても。

「初めまして!
黒沢 友映です!

兄の黒沢 成司は私の兄です!」

ああ、やっぱり。

「コラ、黒沢!

いつまで話し込んでる?

早く教室に戻れ!

2学年の学年集会が始められん」

教師に注意された彼女は、気になる情報を告げてから体育館を出て行った。

「琥珀さん、駅でトラブルに遭って脚をひどく捻挫してるんです。

脚引きずって、彼女にホの字の人が肩を支えてますけど。

そうしないと歩けないくらいで。

始業式の校歌弾くのには間に合わないから、先にタクシーでここまで向かって。

琥珀さんと、彼女の未来の彼氏さんは、兄がここまで送りました。

今ちょっと前にメールが来たので、そろそろここに着くはずです」

彼女にホの字の人、間違いなく巽くんだな。

それにしても、何があったんだろう。

「すみません、遅くなりました!」

「理事長から話は聞いたぞ、帳、巽。

大変だったな。

新学期早々、お前のピアノが聞けなくて残念だったが、表彰もんだぞ。

お前もな、巽。

さすが、次期バレー部部長だな。

とにかく座れ。
学年集会始めるぞ」

学年集会が始まった。

学年主任から碧が他校に編入したことと、修学旅行の行き先がドイツだということが告げられた。

行き先、ドイツになるんだ。

拓実に報告したら、喜んでくれるかな?

会いたい、って言ってくれるかな?

何着て行こう?

そんなことばかり考えていた。

「まずは文化祭だぞ。

その後が修学旅行だ。

来週には前学期の復習も兼ねたテストもある。

勉強に部活に学校行事に、大いに励め」

学年主任のテストという言葉に、頭が重くなった。
30分ほどの短い学年集会は終わった。

すぐさま、琥珀と巽くんは深月や美冬に囲まれていた。

秋山くんや小野寺くん、麗眞くんが彼女たちを窘めていた。

「こんなところで話聞いても、困るだけだろ。
話聞くならまとめて俺の屋敷だ。

とっとと荷物取って、行くぞ。

相沢のリムジンに1人待機させているからな。
まぁ、さっき名残惜しそうに教室に戻っていった子だが」

こういうときに口火を切ることが出来るのが彼のいいところだ。

それにしても、リムジンに待機させてる子、って、もしかしてさっきの友映ちゃん?

そのまさかだった。

ぺこり、と私たちに会釈した彼女。

先程と制服の感じは変わらないが、少し化粧をして大人びていた。

茶色のアイシャドウ、アイラインと眉のトーンが合っている。

マスカラを軽くつけるだけでも綺麗な二重が強調されるのが、年下ながら少し羨ましい。

「よろしくお願いします。

今日あったことの一部始終は巽さんからお話していただくことになっているんです。

私はその補足役として、呼ばれています」

いつものメンツに年下が入るなんて。

少し違和感を覚えながらも、リムジンは麗眞くんの家に到着した。