それから、1時間ほど経った頃だろうか。

すがすがしいほどの笑顔で、美冬と小野寺くんが部屋に入ってきた。

さり気なく星柄のパジャマなのが、カップル感が出ている。

リア充め、と心の中で毒づいた。

「それで?

麻紀さんと真さんと4人で何を話してたのかな?
ラブラブなお2人さんは」

「碧の想い人のお父さんと、ビデオ通話で話してたんだ。

不動産会社でベテランの営業マンらしくて。

しかも、超大手の柏木グループ。

その人が、いろいろ教えてくれたの。

内見のコツ、とか、同棲するオススメの間取りとか」

「お互いの生活リズムが違う中での1DKはストレスになって、そこからギクシャクすることも多いらしい。

多少値が張るけど、援助が受けられるなら、2Kから2DKを勧められたな。

将来的に、籍を入れるのを検討しだした段階で広い家に移る、くらいがいいって。

俺も美冬も、それには完全に同意したから。

物件も何件か見せてもらったんだ。

次のの週末は一成さんのいる不動産屋で内見させてもらう予定」

「うわ、学生で同棲とかいいなぁ。

やっぱ、美冬と小野寺くんじゃない?
いつメンでの結婚第一号は」

「け、結婚、って……!」

「んー?

俺は美冬が有名アナウンサーになって世の男共からの視線が集まる籍は入れたいんだ。

他の男に画面越しとは言え色目使われるの、腹立つ」

「うわ、ノロケるねぇー!」

華恋なんて、ベッドの掛け布団の上をパシパシと叩いている。

「皆ラブラブだねぇ。

理名なんて、拓実からビデオ通話で

『日本からこっちに来い、って本当に言いたくなっちゃう。
ただでさえ、可愛くて色っぽい水着姿の写真見せられて、どうにかなりそう』って言われてたよ?

私が巽くんのいろいろで30分くらいだけど、拓実とビデオ通話することがあるの。

そうしたら話のほとんどが理名のことだから困る。

私の話はほんの少しだけアドバイスもらって終わり。
ラブラブすぎて、2人が羨ましい」

琥珀が思わぬところで爆弾を落としてくる。

「何それ!

理名ったら、もう。

修学旅行中にロストするかもね。
むしろ向こうはその気みたいだし。

ほんと、最初は痛いよ?
覚悟してね」

「拓実ならありえそうだな。

まぁ、医療従事者目指してる身だ、痛くはしないだろうけど。

心づもりだけはしておくと違うかもよ?」

ビデオ通話、琥珀ともしてるんだ。

そりゃそうか。

拓実と琥珀は顔見知りだし、何も悪いことじゃない。

琥珀は巽くんのことを、少なからず気になる異性として意識しているようだ。

琥珀が拓実を好きになる可能性なんて、皆無に等しい。

そう、頭では理解しているのに、妙に胸の奥がモヤモヤする。

琥珀を部屋の隅に引っ張って、彼女に耳打ちする。

「なんて言ってた?

その……拓実。

琥珀とビデオ通話してるときに」

「拓実がなんて言ってたか気になる?

一回日本に帰って、理名と夏らしいデートしたいくらい好きだって!

何なら、本当に一回帰って、そのまま理名をドイツに連れて帰りたいくらい、とも言ってたかな。

愛されてるねぇ、理名。
羨ましい」

そこで言葉を切った琥珀は、私の耳元で囁いた。

「大丈夫。

私は拓実みたいな真面目ちゃんタイプ、男友達としてはいいけど、恋愛対象としては見れなくて。

心配しなくても、理名から拓実を奪ったりしないよ」

琥珀は、こういう恋愛関係の話題に聡くないと思っていたから、彼女から滑り出た言葉に驚いた。

「一応、アクションという修飾語はつくけど、俳優の娘だからね?
何となく分かるのよ」

話が終わるのを待っていたかのように、コンコンとドアが軽くノックされる音がした。

首を傾げながら、美冬が部屋のドアを開けた。

顔を出したのは、麻紀さんだった。

手に持ったトレーには、人数分のお茶が乗っている。

香りからして、カモミールティーだろうか。

「夏休み明けて、明日明後日の土日を終えたら、もう新学期でしょう?

これ飲んで、早めに寝たほうがいいわ」

「ありがとうございます!」

美冬が笑顔でお礼を言う。

小野寺くんがトレーを受け取り、皆にカモミールティーの入ったカップを渡していく。

「麻紀さん、さっきの話、よろしくお願いします」

「分かったわ。
小野寺くんからさっき渡した名刺に連絡をくれるかしら?

秋山くん、って言ったかしら、彼。

彼からも同じように言われたわ。

真が対応していたけれど。

とにかく、その心意気は買うわよ。

一緒に頑張りましょうね。

それじゃ、おやすみなさい」

麻紀さんはそう言って、私たちに大きく手を振ると、部屋を出て行った。

くい、と美冬が小野寺くんのパジャマの裾を引っ張って、部屋の壁際で何やら話している。

まったく、イチャつきすぎだろう。

今頃、椎菜と深月の2人は彼ら以上にイチャついているのだろうが。

「そろそろ寝ようか。

夏休み明けの学校が一番怠いからね。

早めに休もうか」

ハーブティーを全員が飲み干した頃、そう言い出したのは美冬か華恋か。

「えー、今後のために、美冬からどんな感じでロストしたか聞きたかったのに」

私がそう言うと、琥珀も同調した。

美冬はまた今度教えるね、と言うかのように、私たちに向かって片目を閉じた。

翌朝、眠そうに欠伸を噛み殺しながら朝食ビュッフェに現れたのは椎菜と深月だ。

「眠そうだね?
2人とも」

「寝たの深夜2時。

もう、勘弁してほしい。

腰どころか身体中痛いし。

まぁ、あと土日でなんとか治すよ」

「相変わらず満足するまでなのね、麗眞くんは。

よく体力保つよね、椎菜。

ウチのミッチーは、夜は2回だったかな。
早く目が覚めちゃったみたいで、朝も1回付き合わされたけど。

シフォンブラウスから透ける二の腕に、うっすらと紅い痕がついている深月。

彼女はコンタクトレンズユーザーだ。

それゆえ目を擦れないので、必死に瞬きをしていた。

「おはよ!

私とミッチーは、朝ごはん食べたらもう行くね。

巽くんの妹さんに、夏休みの最後の講習をしてあげないとだから」

朝ごはんを食べたら本当にすぐに帰って行った深月と秋山くん。

私たちも朝ごはんを食べたら各々の家に帰宅した。