あさりのクラムチャウダーや、ひじきのサラダ、舞茸入り肉豆腐。

色とりどりのおかずが並ぶ。

豆腐のあんかけハンバーグとほうれん草とベーコンのオイルパスタがメインのようだ。

「なるほど、年頃の私達に、不足しがちな鉄分を、ってことなんですね。

ちょうど、鉄分不足がちなんで、助かります!」

「鉄分は食事から摂らなきゃいけませんから。

めまいとか立ちくらみだけじゃなく、疲れやすいとかダルいとか。

そういう症状は疲労が溜まっていると勘違いしがちなんです。

だけど、実は貧血の可能性もあるって、知らなすぎるのよ、世の中の人は」

「さすが理名ちゃん……!

私も、よく賢人に注意されてね。

近々血液内科に引っ張っていかれることになったんだけど。

採血が本当に怖い」

そう言うのは美冬だ。

首筋と、キャミソールワンピースでギリギリ隠れるところに、割とくっきりと紅いものが見える。

「賢人くんとよろしくやってたんじゃない。

プール楽しんでるときも来ないから、もしかしたらと思ったけど」

「賢人にしては、スイッチ入ったんじゃね?
美冬への身体の負荷かかるの承知で、だったんだろ」

「まぁ、そんなもんだよね。

僕も、麻紀の可愛い姿見ると未だにスイッチ
入りそうになるもん。

年頃だと、余計にね?

僕と麻紀なんて、高校の学校行事で危うく手を出しそうになったし。

麗眞くんあたり、結構キツそうだけどね。

なんせ、お互い婚姻可能年齢になったら即、籍入れた人たちの血は引いてるんだものね?

まぁ、黒沢くんの両親は、高校の卒業式終わった足で婚姻届出しに行ったんだけど」

真さんからの衝撃の言葉。

え、ってことは。

麗眞くんの両親、って、未成年で、麗眞くんの姉の彩さんを身籠ったのか。

それに、高校の卒業式を終えたその足で婚姻届出しに行くのもすごいけど。

「うわ、ホントだ。

碧ちゃんが持ってる資料に書いてある。

『母親の友佳(ゆか)が夫の一成(かずなり)と入籍した5日後に妊娠が発覚した。

妊娠の事実から逃げていた。

一成が熱中症にりかけてまで卒業旅行先の沖縄で、子宝にご利益のある神社のお守りを手に入れていたことを知る。

その出来事がきちんと検査をして、母親の自覚を持つきっかけとなった』

だって。

俺も、美冬のことは好きだし、大学進学を機に二人で住むけどさ。

さすがに卒業式と同時に、は考えないな。

就活でツッコまれそうだし」

「すごいねぇ。

成司がこの世にちゃんと誕生してくれてなきゃ、碧が成司にホの字になることもなかったわけだ」

ホの字、っていつの時代の言葉だ、という目線は意に介さずそう言う琥珀。

「はい、これ。

成司がよく行くカフェへの地図。

偶然装うのも、いいと思うよ。

裏に、成司の連絡先もあるから。

服の好み、はさすがに知らないけど。好きな食べ物とか嫌いな食べ物くらいは知ってるよ。

何かあれば聞いて。

後で、麻紀さんや真さん、私の両親の連絡先も何なら教える。

確か、私の父が成司にたまにジークンドー教えてたはずだから」

「ありがと、琥珀」

「どういたしまして。

碧ちゃんとはあんまり絡みなかったし、これくらいしか出来ないから」

「ふふ。

皆の仲の良さを見ると、私の高校の頃を思い出すわ。

食べなさいな。

プール入ってきたんでしょ、体力奪われてるはずよ」

「遠慮なくいただきます」

そう言って、お皿の料理は道明くんと麗眞くんによって少しずつ減っていく。

小野寺くんも、それから間を開けずにその輪に加わっていた。

「いつもよりハイペースじゃね?

賢人。

どんだけ激しくシたんだよ」

「お前と椎菜ちゃんほどじゃねぇよ。

お前らは、ちょっとは自重しろよな……

自分の両親の真似したいわけじゃないだろ?」

「まぁな」

男子たちの話が下世話な方に行っているのに呆れながら、私たちも料理に箸を伸ばした。

「美味しいです!
麻紀さん!」

「あさりが疲れた身体に沁みるわぁ。
優しい味!」

深月や椎菜が料理を頬張って、満足そうに感想を口にした。

作ってくれた人にとっては最高の褒め言葉だろう。

「さて、碧と理名と琥珀。

この中で最初にロストするの、誰だろうね?」

「理名に食堂のカレー1つ賭けてもいいな」

深月がそう言うと、美冬も乗る。

「私はまさかの碧に、コンビニのプリンだね」

「私は進展早いと見て、琥珀にちょっと値が張るロイヤルミルクティー1本」

こういうのには乗ってきそうにない椎菜まで。

みんな、賭けるのおかしくない?

「僕もよく高校の頃やってたなぁ。

誰が誰に告るか賭けてたりしたわ。

学生だから、ポテチとかしょうもないものだったけど。

僕たちも高校の頃に戻った気分にさせてくれて
ありがとう。

今日、来てよかった。

麗眞くんに、椎菜ちゃん、深月ちゃんに琥珀ちゃん。

それぞれの元気な姿も見れたしね。

それぞれの両親の血もしっかり引いてるね。
とってもいいことだよ」

名前を呼ばれた一同は、一様に照れながら微笑んだ。

トレーに乗った大量のケーキや杏仁豆腐をテーブルに置いた麻紀さん。

彼女は椎菜と麗眞くんに何かを耳元で囁くと、美冬と小野寺くんに名刺のようなものを手渡した。

「さぁ、デザートもあるから食べてね?」

相原さんが促すと、麻紀さんも真さんもニコニコと微笑んで、私達がデザートに手を出すさまを見つめている。

「こういうの、よくやってたのよね。
琥珀のお父さんたちが同級生だった頃、真や麻紀ちゃんも友達に料理を振る舞って。

こういうのが、世代を超えても繋がる、って感慨深いわ」

「そうそう。

私たちの、直接の知り合いではない、秋山くん、美冬ちゃん、小野寺くん、理名ちゃんに碧ちゃん。

貴方たちも、もうこの瞬間から私たちの知り合いよ。

困ったら何でも、話せるなら話してほしいの。

適切な相談役に繋げるパイプを知っていれば、アドバイスはもちろんするわ」

「麻紀の言うとおりだ。

何でもいい。

何なら、連絡先は教えるから、愚痴を吐く相手として使ってくれても構わない。

何なら、遠い親戚くらいに思ってくれ。

昔の僕たちみたいに平穏に、短い高校生活を終えられるように手助けはしたいんだ。

よろしくね」

デザートを食べ終えて、華恋と琥珀がいる部屋に戻った。

麗眞くんと椎菜、深月と秋山くんは、それぞれ同じ部屋でよろしくやっているようだ。

小野寺くんと美冬も、私たちと同じ部屋のはずなのだが、先程の夫婦に呼ばれて別室にいるという。

どんな用件で呼ばれたのだろうか。