夏休みが終わる5日前に、琥珀の家に皆で集まることになった。

麗眞くんと小野寺くん、秋山くんも一緒だ。

そこで、夏休みに放送部の大会の練習に来ていた美冬から、衝撃の事実を聞いた。

碧と会い、喘息の発作が頻繁に出るようになったの保健室登校をするようになっていたということは聞いていた。

このままだと授業についていけず、留年の危険があるそうだ。

単位を引き継いで無理なく通える通信制高校への編入を決めたということ。

そういえば、彼女の血の気のない顔をしばらく見ていない気がする。

この調子では、修学旅行前の健康診断もパスしなかっただろう。

夏休み明けにはもう編入するというから、時間はなかった。

大所帯だと動きづらいので、何人かに分かれて碧へのプレゼントを探そうという話になった。

もちろん、カップルはカップル同士で好きに行動させる。

その日はそのまま皆で琥珀の家に泊まった。

この間は味わえなかったジャグジー風呂も楽しんだ。

こんなのが部屋にあるなんて、どういう贅沢なんだろう。

私の家ではこんなのを味わえないので、のぼせそうになるまで浸かっていた。

麗眞くんのどデカイお家や別荘ほど部屋がないので、部屋は男女で分けた。

女子部屋では、ガールズトークが繰り広げられた。
その矛先は美冬だ。

「んで?
美冬。
柄にもなくアルバイトまで始めちゃって。

大学入学前に同棲でもするの?」

「うん。
一応、そのつもり。

双方の両親とも乗り気でさ。

私達より張り切ってる。

『私のことはお義父さんと呼んでいいんだよ』なんて言ってくるんだよ?
小野寺くんのお父さん。

まぁ、父親がこういう人だったら食卓はもっと賑やかになるんだろうなって思うんだけどね。

賢人がちょっと羨ましい」

「うわ、アオハルだねぇ。

いいなぁ。

数週間前に大学は家から通うかなって言ってた人と同一人物とは思えない」

「 両親ともが応援してくれるなら、そっちの道を選びたいなって。

いつかは結婚するんだし。

そう言う深月だって。

なんだかんだ言って、実家から通うのがダルくて一人暮らしして、たまたまお互いが住むマンションが近くになるとかになって。
家賃勿体ないからって半同棲してる、っていうのもありそう。

深月も秋山くんもしっかりしてるっていうか理論的だからね。

このまま一人暮らしを続けるか半同棲するか同棲するかで、ちゃんとお金とかもしっかり計算して答え出してそう」

美冬の分析に、華恋も椎菜も琥珀も爆笑していた。

「ホント!
それやってそう!
その絵がちゃんと浮かぶわ」

「しかも、ちゃんとExcelでキレイな表作りそうだし」

「深月、それ狙えば?

にしても、両親がしっかりものだと子供もちゃんとした真面目ちゃんに育ちそうでいいなぁ」

「ちょ、琥珀まで!

しかも、子供って!

まだ高校生で早いよ、その話は……

そりゃ、いつかは欲しいけど……

私、精神科医志望なの!

OLみたいに入社して数年経ったら結婚しましただの妊娠しましただの報告できないの!

ちゃんとその辺りも上の人の機嫌と周囲の状況見ながら判断しなくちゃなんだから」

「それは確かに。

だから医学部の女子定員が異様に少なかったりするんだし」

「獣医師も似たようなもんなんだよねぇ。

早く麗眞との子供欲しいのに。

もう名前まで考えてあるんだけどな」

椎菜の爆弾発言に、今度は椎菜へガールズトークの矛先が向いた。

麗眞くんなら、その気になれば明日にでも椎菜を妊娠させられそうなんだけどな。

その言葉は、口に出して言わずに胸の奥にしまっておいた。

「んで?
リア充のお三方はさ、理想のプロポーズとかあるの?」

華恋が話題を振ってくる。

「ってか、そういう話題、気恥ずかしいって!

そういう話って、修学旅行の夜とかに盛り上がるもんでしょ?」

琥珀が言うと、華恋は顔をキョトンとさせた。

「何言ってるの。

修学旅行の夜は、琥珀と巽くんの恋模様と、理名と拓実の話で、もちきりになる予定だから!

ここでこういうことは話しておかないと!」

「え、なんでそこで私と拓実の話?」

「だって、彼のいるドイツに修学旅行とはいえわざわざ行くのよ?

そこで何もないとちょっとねぇ。

ヘタレすぎてドン引きよ。

せめてバージンくらい奪われてきなさいよ」

「え?なんで今そんな話?」

戸惑う私をよそに、美冬が話し出す。

「私は、海辺でデートの後、帰り際に助手席に薔薇の花束108本が置いてある、とかがロマンチックでいいなぁ、って思う。

キレイな夕日が見える時間にがいい。

『この花束が俺の美冬への気持ち。
俺のそばに、一生いてほしいのは、美冬しかいない。
俺と結婚してください』
こういう言葉を添えられればベストだね」

のっけからロマンチックだ。

「私はね、下手な人ならスベるんだけど。

自作のオリジナルソング歌って、その中に結婚してくださいの文言がほしいな。

ミッチーならピアノ弾けるうえに歌は割とうまいし、文句なし」

深月にしては、突拍子もない理想のプロポーズだ。

もっと現実的なプロポーズを考えているかと思っていたのに。

「船上クルーズの最中に、夜景がキレイなところでプロポーズがいいな。

麗眞は直前にヘリで登場。

『椎菜、俺がお前を一生かけてこれ以上ないくらい幸せにしてやる。
だから、俺と結婚してくれ』

こんな感じかな?
台詞としては。

かなりグイグイくる感じのがキュンってくる」

麗眞くんなら、これくらいのことを普通にやりそうだ。

美冬が先に寝る、とギブアップした。

眼の下にはうっすらクマができている。

大会に向けての練習に、何足ものわらじを履いて力を貸した深月。

夏休みはほとんど予定がなかったので、
アドバイスをした華恋が話してくれた。

大会が終わったのが一昨日なのだという。

美冬と華恋とでジャグジー風呂に入ったとき、美冬の白い胸元と細い鎖骨の辺りに赤い痕があったのを思い出す。

大会で準優勝したご褒美、とかで小野寺くんと濃厚な時間を過ごしていたのだろう。

そりゃ、クマもできるわけだ。

それにしても、アナウンス部門では美冬が準優勝。

創作テレビドラマ部門では正瞭賢の放送部が優勝を勝ち取ったというのは素直にすごい。

バイトもしながら、模試も受けながら、大会に向けて相当な時間を費やさなければならなかったのだろう。

そうでなければ、ここまでの好成績は残せない。

一時期、小野寺くんの父親が働くテレビ局に入り浸って、テレビドラマ撮影現場の見学等もしていたようだ。

勉強熱心にも程がある。

私の後ろにあるベッドでスヤスヤと寝息をたてる美冬をチラリと見やって、思った。

夢に向かって頑張るのはいいことだ。

だが、身体は1つしかないのだ。

頑張りすぎて身体を壊しては元も子もない。

そのことを、彼女はわかっているだろうか。

まぁ、このことは美冬の彼氏の小野寺くんに散々言われているだろうから、あえては言わないが。

夏休み明けに、放送室から流れる彼女の元気な声を聞けるだろうか。

このままじゃ、それも危うい気もしている。

かといって、私が彼女に何かできるわけでもない。
そろそろ皆も睡魔に襲われだしている。

大人しく部屋の電気を消して、私も眠ることにした。