皆、ひっそりと昨日のうちに宝月家の屋敷に寝間着を持ち込んでいたようだ。
私達が空港まで乗ってきた車の後ろに積み込んであったらしい。
私は屋敷に忘れていたという紙袋の中に入っていた、拓実とお揃いのパジャマが脱衣室に置かれていた。
もっとちゃんとしたときに着たかったと内心は思った。
着る機会がすぐに出来たのは喜ぶべきことだろう。
とにかく、それを急いで着てシャワールームを出る。
フラフラになりながらガラス張りになっているシャワールームの扉を開ける美冬がいた。
「美冬!?
大丈夫?」
何とか脱衣場に移動させて下着だけは身に着けさせる。
パジャマもボタンを止めたところで、彼女の身体が熱を持っていることに気付く。
風邪か。
深月や小野寺くんから聞いたが、彼女は放送部の次期部長候補であるらしい。
皆の期待を裏切りたくない。
その一心で、昨日終業式終わりに流した、あのビデオ撮影の編集作業を行っていたようだ。
しかも、睡眠時間を大幅に削って。
疲れがたまると免疫力も落ちるため、風邪にやられたのだろう。
何とかハーフパンツも履かせると、シャワーを浴び終えて様子を見に来た琥珀もやってきた。
琥珀は誰かに電話を掛けた。
相手は巽くんのようだ。
「心配だから小野寺くんと麗眞くんがこの階のシャワールームに向かってるって」
琥珀がそう言って電話を切った瞬間、小野寺くんが息を切らして駆け込んできた。
「……完全に風邪でのダウンだな。
美冬、疲れを感じるのが遅いタイプなんだよ。
深月ちゃんみたいに、疲れてくると集中力切れてくるとか。
そういう兆候みたいなのが一切ないんだ。
疲れMAXの限界点を超えてようやく、こんな感じでダウンするんだよ、いつも。
美冬のその性格、恋人だから分かってるのに。
カバーもフォローもしてやれなかった。
そんな俺にも非はあるしな」
小野寺くんはそう言って、美冬を軽々とお姫様抱っこした。
麗眞くんの案内で空き部屋に彼女を運ぶべく、歩いた。
小野寺くんと入れ違いで、シャワーを浴び終えた深月もやってきた。
キャミソールとショートパンツの中が見えそうで正直キケンだ。
秋山くんに何か言われないだろうか。
「美冬、私たちから見ても少し休めば?っていう状態だった。
一心不乱に作業にのめり込んでた、って表現がピッタリすぎるくらい」
「その中で、私の父親とか、小野寺くんの父親にも協力してもらっていたんだもの。
完璧なものにしなきゃっていうプレッシャーも抱えていたでしょうからね。
その緊張の糸が解けた瞬間に、体調不良として今までの疲れがどっときたんだと思うわ」
深月と琥珀が、冷静な分析をする。
そんな中、私はTシャツワンピースを着た琥珀とショートパンツの丈を気にしている深月の手を取って、2階に上がる。
「とりあえず、ここにいても埒があかない!
椎菜と華恋と合流しよう!」
麗眞くんから連絡を受けていたのだろうか。
椎菜と華恋が、階段を上がったところの踊り場にいた。
私たちを見るなり、2人は駆け寄ってきた。
「美冬、熱あるって?」
「そうは言っても、熱しか症状なし。
他に重篤な症状がないなら、病院に連れて行っても仕方ないわ。
小野寺くんに看病任せるしかないのかな。
あ、でも、喉痛いしもの飲み込むときに違和感あるけど、終業式終われば休めるし、頑張らないとって言ってたかな」
その椎菜の言葉でピンときた。
指示を仰ぐために麗眞くんに電話を掛けた椎菜に、スマホを借りる。
「麗眞くん?
ここの近くの大きいクリニックを探して、美冬を連れて行ったほうがいいわ。
熱に喉の痛み、異物感。
急性咽頭炎よ。
終業式の後、あんなに流暢に喋ることが出来てたのが不思議なくらいよ」
『了解。
相沢に伝えるわ。
サンキューな、理名』
とりあえず、麗眞くんの指示で、リビングダイニングにみんなで集まることにした。
ケータリングがすでにテーブルに準備されているという。
消費する要員が2人減ってしまうが、食べきれるだろうか。
サラダやピザ、パスタやデザートがケータリングされている。
ドタバタで皆お腹は空いていたようで、ケータリングはあっという間に減っていく。
巽がケータリングを取りながら、深月に話しかけている。
近くにいたので話が聞こえてしまった。
巽くんの妹が割と自由な校風の正瞭賢への入学に憧れているが、偏差値は足りないという。
勉強を教えるのにピッタリな深月に家庭教師をお願いしたいというのだ。
彼女は、いいよと快諾していた。
その様子を、鋭い目で見つめているのが深月の彼氏の秋山くんだ。
「道明にも頼んでいい?
お前ら、文系と理系で両方から教えられそうだしさ。
何より、道明も彼女さんの影響で心理学の知見あるでしょ。
理屈とか嫌いな人間だけど、心理学なら効果あるかもしれないし。
何より、恋愛相談にも乗ってやってほしい。
正瞭賢に知り合いがたくさんいるって俺が言ったら、妹が会いたがって」
「ん?
俺は深月と2人で行くのが条件なら、首を縦に振るよ」
「頼みます!」
と頭を下げた巽くん。
「了解。
私、こう見えて勉強には厳しいよ?
成績上がったデータ、お母さんの研究材料として使わせてもらうかもしれないから、それだけはお願いね。
もちろん、個人情報なんてわからないようにします」
「俺は、巽の妹が来年高校に入学するなら、俺たちが最高学年になる年に、後輩として来るわけじゃん?
今のうちに接点ほしいかも、って思ったんだよね」
「おお、今ミッチーに言われて気づいた!
そっか!
兄妹で同じ学園って、なんかいいね!
私ひとりっ子だから、憧れちゃうな」
「うん、いいんじゃない?
レジェンドの凄さは実際に見ないと分からないからね」
華恋の謎の言葉に、一同が目を丸くする。
「教師たちの間では、ウチらの学年は『レジェンド』って呼ばれてるのよ。
そりゃそうよね。
学園の誰もが認める公認カップルの椎菜と麗眞くん。
心理学を駆使しているおかげか、成績優秀の深月。
放送部を無名で地味な部活から、華のある部活に変えちゃった美冬と小野寺くん。
養護の先生もビックリな「医療の知識」を持つ理名。
それに、本チャンの入試より難しくしてある編入試験でトップの成績だった秋山くん。
枠が限りなく少ない『いい人推薦』で入学した上に、困っている人は見過ごせない、女子のヒーローの琥珀。
今の学年はこれだけすごい個性を持った人が揃ってるからレジェンドって呼ばれてるのよ」
華恋の情報量はすごいが、どこでそれらを手に入れているのかが気になった。
「それにしても。
拓実くんもやるよねぇ。
ホントは理名を置いて行きたくなかったんだろうな、っていうのは台詞の端々で伝わったし。
理名、可愛い格好して行って正解だったね!」
椎菜がそう言うと、他の皆がうんうんと頷く。
「椎菜も深月も、気をつけたほうがいいよ?
目の前であんなイチャイチャ見せられて、黙ってるような2人じゃないと思うし」
華恋の言葉に、椎菜も深月も顔を真っ赤にしていた。
「理名と拓実くん見てて羨ましいなって思ったから、私からミッチーに迫ってみるかな」
「お、何かな?
深月。
ハジメテ終えてから秋山くんが余計恋しくなっちゃったか」
ピコンとがメールの着信を告げた。
点灯したのは私の青い携帯。
『今飛行機乗ったところ!
12時間15分かかるんだ、とりあえず、着いたら連絡するね!』
拓実からのメールは短かったが、その文面の下には英数字の羅列があった。
『上に書いてあるのがテレビ電話アプリのIDだよ!
いつ連絡出来るかは分からないけど、こっちでの生活に慣れてきたらテレビ電話のタイミングも掴めると思う。
そうしたら頻度増やしたいから、その辺りも話し合おうね!
登録だけはしておいてほしい』
拓実らしい文面に、つい頬が緩む。
ちょうどお腹も満たされたので、私はケータリングを食べる輪から外れた。
テレビ電話アプリの使い方を深月や琥珀に教わるためだ。
私達が空港まで乗ってきた車の後ろに積み込んであったらしい。
私は屋敷に忘れていたという紙袋の中に入っていた、拓実とお揃いのパジャマが脱衣室に置かれていた。
もっとちゃんとしたときに着たかったと内心は思った。
着る機会がすぐに出来たのは喜ぶべきことだろう。
とにかく、それを急いで着てシャワールームを出る。
フラフラになりながらガラス張りになっているシャワールームの扉を開ける美冬がいた。
「美冬!?
大丈夫?」
何とか脱衣場に移動させて下着だけは身に着けさせる。
パジャマもボタンを止めたところで、彼女の身体が熱を持っていることに気付く。
風邪か。
深月や小野寺くんから聞いたが、彼女は放送部の次期部長候補であるらしい。
皆の期待を裏切りたくない。
その一心で、昨日終業式終わりに流した、あのビデオ撮影の編集作業を行っていたようだ。
しかも、睡眠時間を大幅に削って。
疲れがたまると免疫力も落ちるため、風邪にやられたのだろう。
何とかハーフパンツも履かせると、シャワーを浴び終えて様子を見に来た琥珀もやってきた。
琥珀は誰かに電話を掛けた。
相手は巽くんのようだ。
「心配だから小野寺くんと麗眞くんがこの階のシャワールームに向かってるって」
琥珀がそう言って電話を切った瞬間、小野寺くんが息を切らして駆け込んできた。
「……完全に風邪でのダウンだな。
美冬、疲れを感じるのが遅いタイプなんだよ。
深月ちゃんみたいに、疲れてくると集中力切れてくるとか。
そういう兆候みたいなのが一切ないんだ。
疲れMAXの限界点を超えてようやく、こんな感じでダウンするんだよ、いつも。
美冬のその性格、恋人だから分かってるのに。
カバーもフォローもしてやれなかった。
そんな俺にも非はあるしな」
小野寺くんはそう言って、美冬を軽々とお姫様抱っこした。
麗眞くんの案内で空き部屋に彼女を運ぶべく、歩いた。
小野寺くんと入れ違いで、シャワーを浴び終えた深月もやってきた。
キャミソールとショートパンツの中が見えそうで正直キケンだ。
秋山くんに何か言われないだろうか。
「美冬、私たちから見ても少し休めば?っていう状態だった。
一心不乱に作業にのめり込んでた、って表現がピッタリすぎるくらい」
「その中で、私の父親とか、小野寺くんの父親にも協力してもらっていたんだもの。
完璧なものにしなきゃっていうプレッシャーも抱えていたでしょうからね。
その緊張の糸が解けた瞬間に、体調不良として今までの疲れがどっときたんだと思うわ」
深月と琥珀が、冷静な分析をする。
そんな中、私はTシャツワンピースを着た琥珀とショートパンツの丈を気にしている深月の手を取って、2階に上がる。
「とりあえず、ここにいても埒があかない!
椎菜と華恋と合流しよう!」
麗眞くんから連絡を受けていたのだろうか。
椎菜と華恋が、階段を上がったところの踊り場にいた。
私たちを見るなり、2人は駆け寄ってきた。
「美冬、熱あるって?」
「そうは言っても、熱しか症状なし。
他に重篤な症状がないなら、病院に連れて行っても仕方ないわ。
小野寺くんに看病任せるしかないのかな。
あ、でも、喉痛いしもの飲み込むときに違和感あるけど、終業式終われば休めるし、頑張らないとって言ってたかな」
その椎菜の言葉でピンときた。
指示を仰ぐために麗眞くんに電話を掛けた椎菜に、スマホを借りる。
「麗眞くん?
ここの近くの大きいクリニックを探して、美冬を連れて行ったほうがいいわ。
熱に喉の痛み、異物感。
急性咽頭炎よ。
終業式の後、あんなに流暢に喋ることが出来てたのが不思議なくらいよ」
『了解。
相沢に伝えるわ。
サンキューな、理名』
とりあえず、麗眞くんの指示で、リビングダイニングにみんなで集まることにした。
ケータリングがすでにテーブルに準備されているという。
消費する要員が2人減ってしまうが、食べきれるだろうか。
サラダやピザ、パスタやデザートがケータリングされている。
ドタバタで皆お腹は空いていたようで、ケータリングはあっという間に減っていく。
巽がケータリングを取りながら、深月に話しかけている。
近くにいたので話が聞こえてしまった。
巽くんの妹が割と自由な校風の正瞭賢への入学に憧れているが、偏差値は足りないという。
勉強を教えるのにピッタリな深月に家庭教師をお願いしたいというのだ。
彼女は、いいよと快諾していた。
その様子を、鋭い目で見つめているのが深月の彼氏の秋山くんだ。
「道明にも頼んでいい?
お前ら、文系と理系で両方から教えられそうだしさ。
何より、道明も彼女さんの影響で心理学の知見あるでしょ。
理屈とか嫌いな人間だけど、心理学なら効果あるかもしれないし。
何より、恋愛相談にも乗ってやってほしい。
正瞭賢に知り合いがたくさんいるって俺が言ったら、妹が会いたがって」
「ん?
俺は深月と2人で行くのが条件なら、首を縦に振るよ」
「頼みます!」
と頭を下げた巽くん。
「了解。
私、こう見えて勉強には厳しいよ?
成績上がったデータ、お母さんの研究材料として使わせてもらうかもしれないから、それだけはお願いね。
もちろん、個人情報なんてわからないようにします」
「俺は、巽の妹が来年高校に入学するなら、俺たちが最高学年になる年に、後輩として来るわけじゃん?
今のうちに接点ほしいかも、って思ったんだよね」
「おお、今ミッチーに言われて気づいた!
そっか!
兄妹で同じ学園って、なんかいいね!
私ひとりっ子だから、憧れちゃうな」
「うん、いいんじゃない?
レジェンドの凄さは実際に見ないと分からないからね」
華恋の謎の言葉に、一同が目を丸くする。
「教師たちの間では、ウチらの学年は『レジェンド』って呼ばれてるのよ。
そりゃそうよね。
学園の誰もが認める公認カップルの椎菜と麗眞くん。
心理学を駆使しているおかげか、成績優秀の深月。
放送部を無名で地味な部活から、華のある部活に変えちゃった美冬と小野寺くん。
養護の先生もビックリな「医療の知識」を持つ理名。
それに、本チャンの入試より難しくしてある編入試験でトップの成績だった秋山くん。
枠が限りなく少ない『いい人推薦』で入学した上に、困っている人は見過ごせない、女子のヒーローの琥珀。
今の学年はこれだけすごい個性を持った人が揃ってるからレジェンドって呼ばれてるのよ」
華恋の情報量はすごいが、どこでそれらを手に入れているのかが気になった。
「それにしても。
拓実くんもやるよねぇ。
ホントは理名を置いて行きたくなかったんだろうな、っていうのは台詞の端々で伝わったし。
理名、可愛い格好して行って正解だったね!」
椎菜がそう言うと、他の皆がうんうんと頷く。
「椎菜も深月も、気をつけたほうがいいよ?
目の前であんなイチャイチャ見せられて、黙ってるような2人じゃないと思うし」
華恋の言葉に、椎菜も深月も顔を真っ赤にしていた。
「理名と拓実くん見てて羨ましいなって思ったから、私からミッチーに迫ってみるかな」
「お、何かな?
深月。
ハジメテ終えてから秋山くんが余計恋しくなっちゃったか」
ピコンとがメールの着信を告げた。
点灯したのは私の青い携帯。
『今飛行機乗ったところ!
12時間15分かかるんだ、とりあえず、着いたら連絡するね!』
拓実からのメールは短かったが、その文面の下には英数字の羅列があった。
『上に書いてあるのがテレビ電話アプリのIDだよ!
いつ連絡出来るかは分からないけど、こっちでの生活に慣れてきたらテレビ電話のタイミングも掴めると思う。
そうしたら頻度増やしたいから、その辺りも話し合おうね!
登録だけはしておいてほしい』
拓実らしい文面に、つい頬が緩む。
ちょうどお腹も満たされたので、私はケータリングを食べる輪から外れた。
テレビ電話アプリの使い方を深月や琥珀に教わるためだ。



