「今日なんでしょ?
国内で会えるの。

思い切り可愛い格好で会って自分の気持ちを言わなきゃね!」

椎菜の母親はそう言って、近くの女子トイレに私たちを連れて行った。

紙袋から次々と服を取り出していく。

この学園、トイレもパウダールームが広めに設置されるなど豪華なのだが、1階は特に豪華だ。

急遽着替えたりできるように、1つだけフィッティングルームがあるのだ。

これとかいいんじゃないかしら、と言って椎菜の母親がロング丈のドット柄ワンピースを取り出す。

前でも後ろでもリボンを結べるようになっていて、裾が後ろより前の方が長くなっている。

「あと、少々背中が開きすぎだから、キャミソールも渡しておくわ。

サンダルも置いておくわね。

撮影で履いたんだけど、合わなくて内反小趾が悪化しちゃって。

カバンは家に帰ってから黒い鞄を持つといい、と言いたいところだけど、黒だといつもと変わらないわね。

白のリュック、使う?

昔撮影で使って、形が可愛くて買い取ったのだけれど、結局あまり使ってないのよ。

理名ちゃん、貴女のほうが使ってくれそうだから譲るわ。

後で渡すわね?

早く着替えたほうがいいわ。

私も、そこまで時間がないの」

椎菜の母親、菜々美さんに背中を押されるようにフィッティングルームに入れられ、カーテンを閉められる。

私がワンピースに悪戦苦闘しながら着替える。

その外では、美冬や深月がきゃっきゃとはしゃいでいる。

聞こえる会話は、椎菜の母親を褒める内容ばかりだ。

「私の母親をプライベートで見れるのは貴重なんだよー?

最近あまり家に帰ってこないし。

ま、帰ってこないときは私が見切りつけて麗眞の家にいるんだけど」

「麗眞くん、ちょっと娘さんを溺愛しすぎですけど、その辺はどうですか?」

その問いに、勿体ぶっているのかなかなか答えない椎菜の母親。

空気を読まないほうが得だ。

カーテンを思い切り開けると、みんなの目が一斉に私に向いた。

「理名!」

「可愛いー!」

「ワンピース似合うのに、着ないのもったいないよ!」

「拓実くん、幸せものだねぇ。
最後の最後に、可愛い理名の姿見てから日本を離れられるんだから」

皆が口々に言う中、私は椎菜の母親によって化粧を施される。

「ブルーベースの肌だからね、黄みが強すぎる色を使うと浮いちゃうから、気をつけたほうがいいわ」

ときどきアドバイスをされるのも嬉しい。

私は椎菜ちゃんの母親にされるがままだ。

ラベンダーのアイシャドウ、黒のアイラインやマスカラ、ローズピンクのチークを薄めに塗られた。

美冬がたまたま持っていたローズベージュのリップグロスを見やって、これを塗ってあげるといいと微笑んだ彼女。

その笑顔は椎菜にとても似ていて、やはり親子なのだと思い知らされる。

もう時間だからと言い残し、娘に何か告げてから、女子トイレを出ていった。

残った私たちは制服や靴を詰めながら出る。

女子トイレを出ると、待ちくたびれたように麗眞くんが待っていた。

小野寺くんは、秋山くんに軽く肘で小突かれている。

何の話をしていたのだろう。

違うクラスのはずの琥珀もいる。

男子陣はふとこちらに目をやると、ポカンと口を開けた。

「ふふん。理名、可愛いでしょ?」

「もっとこういう服着てちゃんと自分のパーソナルカラーに合った化粧すればいつもと見紛うくらいになるのに。

勿体ないよね」

「一瞬、誰かと思った」

「理名に見惚れないでよ?
理名は拓実くんのだし」

「分かってるよ。

俺には美冬だけだし」

「こらそこ、イチャつくなー」

「理名ちゃんも可愛い。

深月も負けてないけどな」

「道明も賢人も。

自分の彼女さんにメロメロなのな。

まぁ、俺も椎菜が最高級にイイ女だとは思ってるけど」

各々の彼氏のラブラブな台詞を聞きながら昇降口を出ると、見慣れた車が見えた。

それに乗るのは相沢さんだ。

「まずは麗眞坊ちゃまの家に何人かをお送りします。

それから、私が各々の家に送り届けたのち、再び坊ちゃまの家に集合してくださいませ。

13時前には、宝月家の屋敷を出発します。
よいですね?

遅刻は厳禁です」

琥珀と私と華恋が先に麗眞くんの家に行くことになった。

その他の人は一度帰宅し、着替えてから再び麗眞くんの家で落ち合う、という流れだ。

私と琥珀、華恋は相沢さんの車に乗り込み、手を振って皆を見送った。