部屋に入ると、女子陣はベッドに座ってさっそく琥珀ちゃんの話を聞いた。

男性陣は椅子で我慢して頂いている。

巽 優弥くんが気になってはいるが、どうアプローチして良いかわからないのだという。

この間、アイスクリーム屋で琥珀ちゃんを見かけたと私が話すと、しどろもどろで弁解を始めた。

「えっと……あれはね、相談に乗ってほしいって言ったの。

叔父さんの誕生日なの、すっかり忘れてて。

巽くんなら分かるかなって思って、話を聞いてもらったの。

香水とかで喜ぶんじゃないかとか、消えモノのお菓子でいいんじゃないかってお話聞いて、余計わかんなくなって。

今度の土日は部活もないから、お前さえ良ければ近くの大きいショッピングモール行って選ぶのに付き合ってやってもいい、って言われて。

それで、私服姿ってあんまり見たことないよねって話になったんだ。

俺の私服が気になるから休日に出かけたいって解釈でOKなんだよね、って言われたの。

それでね、思わず頷いちゃった。

ねぇどうしよ!
ジーンズとかチェックシャツとかしか持ってない!

スカートなんて制服以外で履いたことないし、ワンピースなんて渋々ピアノの発表会のとき袖通すくらいなんだよ?

ガッカリされたくないよ。

ちょっとくらい、いつもと違うな、って思ってほしいし」

「完璧に巽に惚れてんな」

「そこまでアネさんを変貌させる人、逆に気になるわ」

「爽やか好青年だよー!
麗眞くんと拓実くんと、賢人を足して3で割った感じ?」

「3で割っちゃダメだろ。
でも、まぁ、いいヤツだよ。
真面目だしな。

バレー部でも毎回チームに入れてもらってるみたいだし。

誰よりも早く来て誰よりも遅くまで残ってる奴だから、その努力は認められてるんだろ」

そう言う小野寺くんだが、目線は美冬の方を見ている。

「琥珀ちゃんのこと、危なっかしくてほっとけないとも言ってたしな。

わざと遠回りして帰ってたのも、琥珀ちゃんが心配だったかららしい。

確かにそこら辺の女子高生よりは強いけど、それでも男の本気には敵わないから、って」

「アネさん、昔危なかったときあったもん。

オレたちがワザとクスリやってるやつの現場を見かけて助けたときも、ほんの一瞬、油断した好きに押し倒されてさ。

そっと陰から見守ってた、アネさんの父親の奈斗さん。
彼と、麗眞くんのお父さんがいなかったらと思うとヒヤッとした」

華恋がちょっと待って、と言うと、彼女は女子高生向けのファッション雑誌を鞄から数冊出した。

「こういう時に役立つのよ、これ!」

華恋はそれを琥珀ちゃんに見せると、何やらレクチャーを始めた。

「いきなりフリルとかレースのスカートとか履けなんて言ってないのよ?

こんな感じで、デニムのスカートでもトップスとか小物次第で女のコらしくはなるの!

今日の椎菜の私服だってそうだったでしょ?」

言われてみれば、確かに。
椎菜は普段は女子高生というより大学生のお姉さんのような私服が多い。

今日のようなデニムスカートはレアだ。
しかし、充分、女性らしさは出ていた。

少なくとも、今、麗眞くんととんでもなく激甘な時間を過ごしているのではと思うほどに。

「俺は、普段と変わりすぎてもちょっと違和感を感じるな。
ちょっと自分の好きなテイストはちゃんと残しててほしいかな」

小野寺くんがそう言う。
やはり、何度も美冬をチラチラ見ている。

「俺はね、やっぱ気合い入れてほしいから前と違うな、ってほうが自分を好いてくれてる感じが伝わる。

だから、理名と初めてレストランデートした時の服装、ドンピシャだったんだよな。

女のコらしくて。
女のコの雰囲気も感じたけど、キュロットの辺りが、ちょっといつもの理名ちゃんらしいボーイッシュさが垣間見えて良かった」

華恋が拓実くんにバレないようにVサインを作っている。

さすがは恋愛のカリスマ、華恋だ。

小野寺くんがふと席を立って、美冬を手招きした。
彼女とナイショ話をしている。

「ちょっと美冬と2人で出てくるわー」

それだけを告げて、美冬と小野寺くんは部屋を出ていった。

美冬が出ていくと、華恋はあのお二人さんも、椎菜や深月と同じイチャラブコースね、と呟いた。

「イチャラブコース?」

なんの気無しに呟いた言葉を、彼女はしっかりキャッチしていたらしい。

「消灯時間までだけど、彼氏さんと甘い時間過ごすんでしょうよ。

小野寺くんなんて、美冬のTシャツワンピからチラ見えする太ももチラチラ見てたもの。

私たちの話なんてロクに頭になかったはずよ。

昼間なんて美冬、オフショルダーのトップス着て肩出してたし。

小野寺くんはいくら彼女持ちも多いとはいえ、他の男もいる中で露出の高い格好するな、って言いそうだし。
それを教える意味でお仕置きしてる感じじゃないかな?

後でみっちり聞き出してやる」

さすがは華恋だ。
もう、さすがしか語彙がない。

ボキャ貧な私を許してほしい。

「うん、俺も華恋ちゃんに1票だ。

なんせ、風呂場で色々惚気けてたんだぜ、
彼女持ちの御三方。

賢人なんて、あの美冬ちゃんの私服見てから気が気じゃなかったって。

無自覚に男を煽って、どうなるか今度みっちり身体で教えてやる、普段より強引にいかないとなって言ってたし。

それに道明も麗眞も乗っかっていろいろ言ってたぜ。

ま、麗眞が一番あの中じゃ性欲オバケだな。

椎菜ちゃん見てれば嫌でも分かるだろうけど。
彼女の話題振っただけで、下半身を反応させてたし。

しかも俺たちが風呂行く前の椎菜ちゃんが薄いTシャツにショートパンツだろ。

男を欲情させるには十分すぎる。
風呂上がりで髪濡れてれば余計にな。

ってことで彼女今頃、どうなってるか、想像するだけで怖いな。

何しろ1回出し切って立て続けに出来るやつ、レア中のレアだぜ。

しかもあの様子だと、会えない日は彼女との夜思い出して抜いてるな。

これ以上はさすがに女の子の前じゃ言えないから自重する」

「深月も同じことを心配してた。

今はちゃんとしてくれてるのかもしれないけどこんなんじゃ、大学生のうちにデキちゃうかもよ、って。

普通の文系女子大生ならなんとかなるのかもしれないけどさ、椎菜は獣医師志望だもん。

しかも彼女の目指している大学、試験がダメダメだと容赦なく留年あるいは退学させる、って話だし。

そんな大学、そうやすやすと乗り切れない。
ましてや在学中に妊娠なんて。
自らドロップアウトするようなものね」

華恋と拓実くんの会話には途中でついていくことを諦めた。

だが、この話は当たらずとも遠からずになるなんて、誰が予想できただろう。

琥珀ちゃんの傍らにある雑誌を読み込むでもなく、パラパラと捲った。

私も修学旅行用の服、そろそろ考えようかな。

宿泊オリエンテーションのときのサロペットに頼るつもりではいるが、それだけでは心もとない。