卓球場では、拓実くんと麗眞くんによる白熱のバトルが繰り広げられており、私たちが着いた頃にようやく決着したようだ。

「さすが。部活でやってる人は違うね。
完敗です」

「まぁ、これでも一応、次期部長候補だったからね。
留学のこと話したら、すごい惜しまれたよ」

え、次期部長候補だったんだ……
さすが拓実くん。

「さて、俺が勝ったらさ、1つ、何でも条件飲んで貰う約束だったよね?麗眞くん」

「そういえば、そうだったな。
何でもどうぞ」

「頑なに男女で階も別にしてマチガイ起きないように、修学旅行っぽくしてるけどさ。

いいんじゃないの?
そこまで厳しくしなくても。

ここにいる人たちは空気読める人たちばっかりだし。

お互い、大事な人にいろいろ言いたいこともあるだろうからさ。

麗眞くんだってそうだろ?
そこにいる彼女さんに会いたくて仕方ないだろうし。

各々自由に過ごさせてやろうぜ?
今、この瞬間から。

お友達といろいろ雑多な話するのもよし、

彼氏さん彼女さんに会いに行って甘い時間過ごすもよし。

俺なら理名に会いに行く。

これが俺の条件」

それを見兼ねたのか、椎菜が麗眞くんにぎゅうっと抱き付いた。

「私は、親友たちも大事だから、もちろん夜過ごしたい。

だけど、麗眞とも過ごしたい!

ずるいよ、あんな煽り方して。
疼いちゃうじゃん。

私、この後は麗眞と一緒がいいの。
ダメ、かな」

「椎菜、お前こそ俺を散々煽ってどうしたいわけ?
知らないよ?

この後どうなっても」

麗眞くんは、一旦椎菜を腕から離して、私たちに言った。

「お前ら、卓球は終わりでここで解散なー。
個別に部屋使いたければ相沢に言えよー。

あ、22時30分に消灯なのと翌朝7時起床なのは変わらないからな」

麗眞くんの一言で、秋山くんは深月を連れてさっさと部屋を出て行った。

小野寺くんは困ったように美冬をチラッと見た後、何やら彼女に話しかけている。

麗眞も、椎菜を連れて卓球場を出た。

この場に所在なく残ったのは、美冬と小野寺くん、華恋と私、そして琥珀ちゃんだ。

「私、ちょっと皆に相談があるんだけど、いいかな?」

琥珀ちゃんがそろりと手を挙げる。

「お、相談?恋愛の相談なら任せてよ。
どうせ、巽くん関連でしょ?」

「そういうことなら部屋行こうか!
ゆっくり聞きたい!」

華恋が張り切る。

「でも、ここからどうやって部屋戻るの?
広すぎて絶対迷子になるよ」

卓球場を出たところで、誰かとぶつかった。

「大変失礼いたしました。
お怪我はございませんか?」

上から降ってきた男の人の声。
低いが、滑舌も良くて聞きやすい。

この口調は、十中八九。

麗眞くんの執事さん、相沢さんだ。

「あ、相沢さんだ!
ねぇ、ここからどう行けば私たちの部屋に戻れる?
案内してよ!」

「私も先ほど、秋山様たちをお部屋まで送り届けたところです。

さぞかし甘い時間を過ごされるのでしょうね。

浅川様のボディークリームの香りがいつもと違うことに、秋山様は気付いておいでのようでしたので」

「そうなのー!
お風呂上がりにね、椎菜と深月と私がそれぞれ持ってるボディークリームを交換しあったの。いつもと違う香りのを塗ってみたんだー!

欲情させよう作戦、ってとこかな?」

「それにしても、帳様は愛嬌があるといいますか、他人をその気にさせるのが上手いといいますか。
きっと、父の血を強く引いていらっしゃるのでしょう。

きっと恋愛でもプラスに働くかと」

「確かにアネさん、昔からそういうところあるし。

しかし、アネさんにも気になる人ができたか。


ってかいつの間に?
どんな人?
アネさんは恋愛しないタイプだと思ってた。
というか、自分より強い人じゃないと彼氏にしなさそうだなぁって思ってたのに」

琥珀ちゃんに拓実くんが小突かれて、イテ、と小さく声を上げた。

「お部屋はこちらでございます。

小野寺様も、帰りはお迷いになりませんようにお気をつけください。
それでは、どうぞごゆっくり」

案内してくれた相沢さんに頭を下げる。
30度のキッチリしたお辞儀を返した相沢さんはくるりと私たちに踵を返した。