好きじゃなくてもいいよ

お願い、なんか言ってよ―――


祈るような気持ちで、瞳を閉じた。

しかし、教室には沈黙が流れている。



ああ…ダメだったんだ…。



そう思うと、視界がぼやけてきた。


泣くな、まだ泣くな私。


唇を噛みしめていると、ふっと、香水のにおいが強くなった。

それに気付いた瞬間、後ろから抱き締められる。



「本当に、好きにならなくて良いんだな…?」


低い声が残酷な言葉を吐く。


「良いって言ってるじゃん!!気楽に考えてよ~。」


あははっ!!と笑いながら、頬を涙が伝った。

向かい合ってなくて良かった。

涙を見られたら…翔のことが好きだってバレたら、きっと、この関係も終わってしまうから…。



「じゃあ、よろしく、由梨。」


由梨。

初めて名前を呼ばれたのに。

胸は高鳴ったのに。

また、涙が溢れた。










「は!?つ…付き合う事になったぁ!?」

「しーっ!!声がでかいってば!!」



翔がトイレに行っている間に委員会から戻ってきためぐに報告すると、目ん玉が飛び出そうなくらい驚いていた。

簡単に経緯を説明すると、泣きそうな顔をする。


「間違ってるよ、由梨…好きなのを隠して…ダミーの彼女になるなんて、そんなの…絶対辛いよ?絶対たくさん泣くよ?」

「うん…分かってる…。それでも、嫌なの。翔の隣に私以外の誰かが立つのを見るのは…。」


つられて泣きそうになるのを堪え、笑って見せた。

めぐは辛そうな顔をして、私の頭を撫でる。


「…由梨のバカっ…」


うん、うん、ほんとバカだよね。

でも…良いんだ。

嘘でも、翔の彼女だって言える。

翔の隣に立てる。

今はそれだけで…きっと幸せだから―――