「はい!ほら巳波君、こっち向いて〜」


このまま反抗して寝ても叩いて起こされそうなので渋々女の言葉に従う。


「…はい、これで最後の写真ね。微笑んで見せて」


微笑む?


微笑むってことは笑えってことだよな?


「笑えない」


正直にそう言うと「じゃあ、何か楽しいことでも好きなことでも思い出してみてよ」なんて言い出した。


そんなもの思い出しても変わるはずないのに。


いちごミルクに甘いお菓子、猫に星に月。


…そして、“巳波の笑った顔…かっこよかったんだから”そう言ってくれた…柚。


その瞬間


__カシャッとカメラのシャッターを切る音が聞こえてきた。


「…何よ、何よ、何よ!巳波君笑えるんじゃないっ!無理かもって思ったけどうわぁぁ、これは来るわ!!お金ががっぽがっぽ入ってくるわ!」


興奮気味に、俺の方まで近付いてくる女の鼻息が凄く荒くて怖い。


そして女は俺の手を掴み、ブンブンと勢いよく上下に振ると、カメラを持ちながら颯爽と何処かへ行ってしまった。


「…なんなんだ?」


俺達だけ、この撮影していた教室に取り残される。