「…え、嘘」
体温計に表示された数字を見て、思わず声をあげてしまう。
38.9度
もうすぐで39度だ。
こんなに熱が出たのはいつ振りだろう。
比較的、身体が丈夫なあたしは余り風邪を引くことは無い。
「見せて」
巳波は手を出し、体温計を要求するがそれをあたしは拒否する。
「あはは、37.5度で微熱だったよ」
頰が引きつってるのがわかる。
「……」
あたしの嘘に巳波は何も言わず、あたしに背中を向ける。
ふぅ…。
バレなかったと安堵の溜息をもらすが、巳波はそんなに甘くなかった。
いとも簡単にあたしの手から体温計を奪い、再びあたしと向かい合う。
そして、体温計と睨めっこ。
「…柚」
「はい…」
うわぁ怒られるかな?なんて考えが頭に過る。
でも巳波の口から出た言葉は正反対の優しい言葉だった。
「…寝て、ご飯作るから」
怒ることもなく、体温計を握り締めて巳波はキッチンへと移動する。

