家の前で倒れている男に餌付けしてみた結果(仮)



巳波が来てくれたと分かっただけで、これまでの警戒心が少し薄れた。


でも、今の巳波は家でみる巳波の表情とはどこか違う。


いつもはもっと、どこを見ているのかたまに分からなくなってしまうくらいフラフラと目を離すとすぐに消えてしまいそうなのに、今は真っ直ぐ。


真っ直ぐに敵を見据えている。


3人も敵がいるのに、巳波は冷静で取り乱しもしない。


…“麒麟の幹部”


何故か、男に言われた言葉がスッと簡単に頭に入ってくる。


もう疑いようもない。


あたしの目の前にいる巳波は麒麟の幹部だったんだと理解出来る。


あたし達の状況は今不利だと言うのに、安心出来てしまう。


巳波がいるなら大丈夫だとどこかで思っている自分がいる。


「巳波っ、ご褒美にデザート買ってあげるよ」


少しだけ震える声、精一杯巳波にちゃんと聞こえるように言って、ニッと笑う。


「プリンとショートケーキ」


巳波はあたしの言葉に一瞬目を見開いたが、口角を上げて応えてくれた。


二つも注文なんて容赦ないな。


と思いながら、巳波があたしに初めて見せた笑顔に心温まる。


そして何故だか息苦しくなった。


キュウッと胸の奥の心を掴まれたような感覚。


よく表現できない感覚にあたしは困惑するばかりだった。