家の前で倒れている男に餌付けしてみた結果(仮)



〈巳波八尋side〉


嗚呼、凄いイライラする。


思わず柚の腕を掴んでる手に力が入ってしまう。


“巳波に言うような話じゃないよ”


柚の形いい唇から紡がれた言葉が頭の中で何度もリピートする。


何で俺はこんなにも柚に、きーさんと呼ばれたあの男にムカついているんだろう。


あの男、俺の事を見て意味有りげに微笑んで、柚の耳元で何かを言った。


「巳波…痛い、よ」


柚の痛そうな声にハッと我に返る。


柚を見ると悲痛に顔を歪めていた。


急いで手を離すと、柚の腕は赤くなっていて罪悪感が残る。


「…柚は警戒心が無さすぎ」


「そうかな…」


「すぐに変な男に連れてかれそうだ」


「そんなことないよ、バカ」


「柚は俺の事だけ見てればいいのに…」


「……」


急に聞こえなくなった柚の声に焦る。


何を口走った?


柚の顔を見ると、頬が紅色に染まっている。


変なこと言ったか?


無意識に出た言葉、何を言ったかなんて自分でも忘れてしまった。


「柚…?」


いつまでたっても固まったままの柚の頬に手を伸ばし、滑らすように触る。


「紅くなってる」


そう言うと柚はいきなり顔全体を両手で包み込むようにして隠した。