「ありがとうございました〜!」
最後のお客様が出て、あたしの仕事が終わる。
「きーさん、すみません。先に上がらせてもらいます!!」
「ん〜、わかった」
ホールを抜けるさい、チラリと巳波を見ると眠そうに欠伸をしていた。
眠いんだったら、帰っても良かったのに…。
ロッカーがある従業員専用の部屋に着いて、ため息1つこぼす。
エプロンを脱ぎながら考えることは当然巳波のこと。
巳波が注文したいちごミルクはもうグラスからなくなっていて、巳波はうつらうつらと眠りに入りそうだった。
そんな巳波に少しだけ罪悪感が湧く。
今あたしに出来ることは早く巳波の所に行くだけだよね。
ロッカーから荷物を取り出し、急いでこの部屋から出る。
「きーさん、お先に失礼します」
そう言って巳波の元へ行こうとしたが、きーさんの力強い手に腕を掴まれ立ち止まってしまった。
「柚鈴ちゃん、ちょっと耳貸して」
突然のことに疑問に思いながらもきーさんに耳を向ける。
すると、きーさんは内緒話をするようにこっそり耳打ちした。
「柚鈴ちゃん、あの人のこと好きだろ?」
「…なっ!?」
な、何でバレてるの?
耳を勢いよくきーさんの口元から離して睨む。
「そんなに顔赤くして睨むなんて図星って言ってるのと同じって気付いてる?」
腹黒そうに笑うきーさんは何を企んでいるんだろう。
「あー、もう。そうですよ…」
ここまでバレたら肯定するしかない。
所詮、開き直りというやつだけど。
「ふ〜ん」
ニヤニヤと笑みを浮かべるきーさんは今だけ子供っぽく見える。
「ま、頑張って」
ひらりと手を振ったきーさんに手を振り返さずにようやく巳波の元へ辿り着いた。
「巳波、終わったよっ」
「……」
笑顔で巳波の所に来たのに巳波はあたしを見つめたまま動かない。
そして、あたしから視線を外したと思ったら勢いよく立ち上がり、あたしの腕を掴んで店内を出た。
「み、巳波!?」
急にどうしたの?

