「それにしても先輩が来てくれて良かったです」


ホッとしたように胸に手を当てため息を吐く響。


「え?何かあったの?あたしがいない間に」


「あったも何も、この前入った…芦屋さん、芦屋心さんがちょっと…」


響は怪訝そうに眉を顰め、言いづらそうにあたしを見る。


「ん?心がどうしたの?」


まさか心に限って失敗続きで使い物にならないとか有り得ないし…。


「実は……きーさんにベッタリなんですよあの人」


いつもよりデカイ声を抑えて、耳打ちしてくる。


あぁ…それには苦笑いしか出ない。


「…だから俺、先輩がいない間凄く居づらくて…心配も勿論してたんすけど、やっぱり…」


「おはようございま〜すっ」


響の声に被せて店のドアを勢いよく開けた人が誰か見なくてもよく分かる。


「き、来ちゃいましたよ…」


トレーで顔を隠すようしてびくりと肩を震わせる姿は蛇に睨まれるカエル。


野球部がそんなに弱々しくてどうするの…。


ましてや睨まれてもいないのに。


女々し過ぎて思わず笑っちゃう。


「せ、先輩ぃ。笑ってないでアレをどうにかしてくださいよ!」


響が指差した方向に視線をスライドさせれば、きーさんと嬉しそうに話す心の姿。


心からは誰が見てもわかるようなピンクオーラが漂っている。