俺にはまだ何かあるようにしか思えない。


余裕そうに笑みを浮かべている男の口元が脳裏に浮かぶ。


これから楽しいことが待ち受けているかのように、あの男は俺に殴られながらもそれが当たり前として受け入れているようだった。


まるで、俺に負けることが予測できたかのように…。


最初から勝気など無かったかもしれない。


「滝川…情報、どうも」


俺はベンチから立ち上がり滝川を見下ろし言うと、滝川は複雑そうに微笑んだ。


「…行くよ」


滝川をベンチから立つように促すが、不思議そうな顔で俺を見てくる。


「行くってどこに?」


…馬鹿か、コイツは。


「送る…そこまで俺は非道じゃない。もう外は暗い、ココアのお礼だと思えばいい」


バイクのヘルメットを投げ、滝川に渡す。


「……」


滝川はジッとヘルメットを見つめて、再び涙ぐみながら、ごめんね…と呟いた。


ごめんで済めばこの世界はもっと平和だっただろう。


「いいから、乗って」


最後だ。


滝川にこんなことをするのも、顔を見るのも、話すのも。


___滝川を家に送り届けた時も終始複雑そうな表情を浮かべるだけだった。


俺はね、自分のものを傷付けられるのが嫌いなんだよ。


我が儘で独占欲が強い…それも俺。


いつまでも猫のまま大人しく引き下がるつもりもない。


side END