「ごめんね。あたし、名前はわからないの。あの時は兎に角あの子を八尋のそばから離すことに夢中で…誰でもよかったの」
「…顔とか特徴は」
誰でもよかっただなんて、俺がもっと早くに気付いていれば、滝川のことを止められたと思うとやはり、俺の責任は重い。
「顔は…黒いフードを被っていてよく見えなかったけど、右耳に赤い小さなピアスが光ってた。あとは…笑ってたことしかわからない」
黒いフード…確かあの時にボコボコに殴った奴も顔を隠すようにキャップを深く被っていた。
今思えばそのキャップの奴に吐かせればよかったと思うけど今更後悔したってもう遅い。
…それに、あの時は柚を早く安心出来る場所に行かせたかった。
柚は平気なふりをして隠していたけれど、確かに柚は震えていたんだ。
___赤いピアスは、見覚えはない。
それは証ではなくただ単に個人の持ち物か何かだと思う。
顔を隠すということは俺と麒麟に正体がバレたくないから。
それに、笑っていた…それもキャップの男もそうだ、あの時柚を攫ったが守りは薄かった。
無数のカメラは機能していたはずだというのに応援もこない。
こっちの様子をただ伺っているようだった。