〈巳波八尋side〉


保健室に入り、柚がいるベットの側まで歩く。


まだ柚が気持ちよさそうに眠っているのを見ると、自然と柚の頬に手が伸びた。


きめ細かい肌に触れる。


「…わからない」


この気持ちが何なのか。


ピンクに色付いた唇を指で触れようとしたが、寸前のところで止めた。


最近おかしい。


何故こんなにも柚に触れたいと思うのか。


頬に触れていた手を離し、手のひらを見つめる。


何だか苦しい。


苦しみの理由が知りたいのに全くわからない。


初めての感情に戸惑うばかりだ。


唯一わかっていることは今の俺には理解できないということ。


鞄の中から誰かから着信がかかる。


俺は端末を手に取り、少し柚の元を離れた。


電話をかけてきたのはお姫様。


受話器が表示されている画面をタップするとお姫様がすぐに話す。


『麒麟の倉庫に来て。…全部話したいの』


その言葉に俺は何も応えないまま静かに電話を切った。