「柚?」


「……」


うわうわうわ、どうしよう。


さっきはゾンビみたいな奴に気を取られて気付かなかったけど、後ろから次の人だと思われる多数の声が聞こえるし、前には巳波がいる。


逃げ場なんてないっ。


これは恥をしのんで言うべき?


“ゾンビみたいな奴が怖くて腰抜けた”


って?


無理無理。


そんなことを脳内で考えていると巳波は突然あたしの前に背中を向けながら腰を下ろした。


…え、何?


まさか巳波も腰抜けた、とか?


いやいや、そんなの有り得ない。


巳波の行動にはてなマークを浮かべるあたしに、巳波も首を傾げた。


「…おんぶ」


しないの?なんて当たり前のように不思議そうにあたしを見てくる巳波に動揺してしまう。


もしかして、腰が抜けちゃったことに気付いてくれた?


もう、反則だよね。


いつもボーッと何を考えてるのかわからない自由気ままな人なのに。


あたしの気持ちなんて少しもわかってないくせに。


そんな優しいことしてもっと好きにさせる。


「…卑怯だよ」


ボソリと小さく呟いた言葉は多分巳波には気付かれてない。


あたしは後ろからの無数の声から逃げるように巳波の背中におずおずと乗った。